高次脳機能障害ってどんな病気?失語症、失行症、失認症とその原因についてまとめ
「高次脳機能障害」とは脳の障害によって起こる問題の一つです。
脳の障害といえば、麻痺や感覚の障害をイメージすると思いますが、これらとは全く違うものです。しかし、脳の障害においてはこれらと同じように重要なものになります。
その症状は複雑で、この問題が脳の疾患の理解を妨げています。
また、高次脳機能障害は症状が多岐にわたり複雑なため、しばしば認知症と混同されている場面も見受けられます。
脳血管疾患に関わるリハビリ専門職では学習の機会が多く設けられていますが、柔道整復師や鍼灸師ではその専門性の違いから学習の機会が少なく通常の学習カリキュラムでは十分に理解することが困難です。
というのも僕自身が柔道整復師として福祉施設で機能訓練をしていた時、もっとも困ったことが、脳梗塞、脳出血などで片麻痺となっている方への訓練でした。職域が広がった今、福祉施設に務める柔道性整復師、地域で活躍する鍼灸師は高次脳機能障害の知識は必須となっています。
また現在、医療制度の変化により入院期間には制限ができ、リハビリテーション自体も在宅の方向に変化しています。それに伴い、自宅に帰られてからのリハビリテーションのニーズが高まっています。
この変化によって、柔道整復師、鍼灸師においても以前より脳血管疾患に関わる機会が増加しています。
地域でこれから活躍していくには専門分野以外の知識も必要となってくる時代となりました。また、知識の拡大は他職種の理解にもつながり、連携も高められると考えられます。
今回は高次脳機能障害についてまとめます。
高次脳機能とは
高次脳機能とは言語、行為、認知、注意、判断など主として連合野皮質によって営まれる機能です。脳の表面にある大脳皮質という部分にはそれぞれ一次運動野や一次感覚野など〇〇野と名前のついた部分がたくさんあります。
これらは、一次視覚野でしたら視覚に関わるというようにほとんどが名称に対応した機能になっています。
では、この〇〇野と名前のついていない大部分は何をしているのでしょうか?
この場所はすべて連合野皮質(以下連合野)と呼ばれています。じつはこの連合野こそが高次脳を司っているのです。
なぜこのような部分が必要であるかというと、視覚や聴覚などの情報は単体で伝わるのではなく、この連合野で統合されて初めて理解されます。そのため〇〇野の部分が得た情報を統合する「高次の」脳機能と呼ばれています。
高次脳機能障害は、この統合がやられているといえます。
どのような症状になるかというと例えば見えているのに理解できなかったり、聞こえているのに理解できないなどの混乱が生まれます。
高次脳機能障害はこの様な特殊な症状を呈するため、一般に理解されにくく、認知症とまちがえられてしまうのです。
高次脳機能障害とは
高次脳機能を営む連合野が脳梗塞や脳出血により障害された場合に起きます。
また、高次脳機能障害は医学的な定義の他に、行政的な定義が存在するため混乱を招きやすく、より一般の理解を妨げています。
「医学的な定義」では、脳血管障害や変性疾患、頭部外傷などにより、失語症、失行症、失認症、認知症などをきたしている状態を指します。
「行政的な定義」では、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などをきたしている状態を指します。
臨床では特に断りなく「高次脳機能障害」という場合、医学的な定義を指している場合が多いです。
つまり、高次脳機能障害とは、「失語症、失行症、失認症、認知症などをきたしている状態」と言えます。
ではこの失語症、失行症、失認症とはどのようなものでしょうか?
失語症、失行症、失認症
高次脳機能障害になると起きる失語症、失行症、失認症の概要を簡単にまとめてみます。
①失語症…脳損傷が原因で、読む、書く、話す、聞くなどの言語機能が失われた状態。
②失行症…学習された意図的行為を遂行する能力の障害。
③失認症…感覚自体の異常がなく、注意や知能といった一般的な精神機能が保たれているにも関わらず、対象を認知できないことの総称。
以下にそれぞれの詳細をまとめます。
【①失語症】
失語症は、主に優位半球(左側が多い)の障害で起こります。
失語症の分類としては、簡単にまとめると全失語、Broca失語、wernicke失語の3つがあります。(さらに詳細な分類がありますが今回は省略します。)
これら3つはそれぞれ「発語、聴覚的理解、呼称、復唱、読みと書字」が部分的に障害されます。
以下に特徴を紹介します。
Broca失語とは
①非流暢。
②言語理解は可能。
③複雑な命令には了解困難を示す事もある。
④復唱は障害される。
⑤高度になると無言状態となる。
⑥音韻性錯誤が多い。
wernicke失語とは
①流暢。
②言語理解は不可能。
③錯誤、語健忘、保続があり、何を言おうとしているのかわからない。
④復唱は障害される。
⑤高度になるとジャルゴン失語(錯誤の頻発)を呈する。
⑥語性錯誤が多い。
全失語とは
上記の言語活動すべてにわたる重篤な障害。あるとしてもごく少数の残語のみ。
【②失行症】
失行症は運動麻痺と混乱しやすいですが、できる能力があるのにできないことを言います。
定義は運動障害がなく、しかも行うべき動作や行為も十分わかっているのにこれを行うことができない状態です。
優位半球障害(左脳障害)で起こるものが多いです。
以下に代表的なものを紹介します。
①肢節運動失認…指先を使った細かい動作ができない。
②観念運動失行…指示されたジェスチャーができない。ただし、自発的にはできる。
③観念失行…慣れているはずの道具の使い方や手順が分からなくなる。
④構成失行…三次元の構成ができない。劣位半球障害によりこれが見られた場合、半側空間無視による可能性が高い。
⑤着衣失行…着たり脱いだりする事ができない。
【③失認症】
失認症は日常的に意識せずにできる認知機能が障害されます。
最初に例としてあげた見えているのに理解できないなどがこの症状です。
代表的なものを紹介します。
①物体失認識(視覚性失認)…
日常用いている物を見せても、それが何であるかわからない。視覚による物体の認知障害。
②視空間失認…
1)視覚性定位障害→対象物が空間内のどこにあるかを認知することができなくなる。複数の対象物では相互の位置関係や大きさを比較する能力が障害される。
2)半側空間無視…半側の空間が認識できなくなる。半側空間失認ともいう。
各症状の原因病巣
では、上記の症状は、それぞれ脳のどこの部分が原因なのでしょうか?
簡単にまとめてみます。
高次脳機能障害の理解にはこれを暗記する必要があります。
この知識があって初めて患者さんに起きている現象をある程度想像できます。
これを暗記していれば例えば脳画像や診断名から「脳梗塞で右脳が障害されている」という情報得た場合、そこからおおよそ起こる可能性が高い高次脳機能障害を予測することができます。
障害部位 |
左右 |
症状 |
|||
両側 |
注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害 ※左の場合Broca失語 |
||||
左側 |
身体部位失認 |
←合わせて 肢節運動失行 |
観念運動失行、観念失行、失読失書 |
←合わせて構成失行 |
|
右側 |
半側身体失認、病態失認、着衣失行 |
||||
側頭葉 |
左側 |
聴覚性失認、wernicke失語、物体失認 |
|||
右側 |
聴覚性失認、相貌失認 |
||||
両側 |
物体失認、相貌失認、色彩失認、視覚性運動盲 |
前頭葉の機能
前頭葉では「人間らしい」活動を司ります。具体的には、判断・思考・計画・企画・創造・注意・抑制・コミュニケーションです。そのため障害されると、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害のような症状が現れます。
いわゆる認知症も高次脳機能障害に含まれますが、この前頭葉の障害に関わりが深いと考えられます。
後頭葉の機能
後頭葉では主に「視覚」情報を司ります。そのため障害されると、
①物体失認…見ただけではわからないが、視覚以外の感覚を使えばわかる。
②相貌失認…身近な人や有名人でよく知っているはずの人の顔が識別できなくなる。
③色彩失認…色を認識できず、全てがモノクロに見える。
④視覚性運動盲…動いてる物を認識できず、見ているものが全て静止して見える。動いているものはコマ送
りに見える。
などの状が現れます。
側頭葉の機能
側頭葉では主に「聴覚」情報を司ります。そのため障害されると、
①皮質聾…音を音として認識できない。
②環境音失認…音は聞こえているが、その音が何の音であるかが分からない。
③物体失認…側頭葉の障害でも見られる。
④相貌失認…側頭葉の障害でも見られる。
などの症状が現れます。
頭頂葉の機能
頭頂葉では身体各部の体性感覚と他の感覚(視覚・聴覚など)との統合・認知を司ります。
頭頂葉連合野では様々な感覚を統合・認識することにより物体の識別や空間認知を行い適切な運動の計画が行われます。
そのためほとんどの高次脳機能障害の典型的症状は頭頂葉の障害で多く起こり、また他の部位の障害よりもイメージしづらいものが多いです。
しかし、様々な感覚の統合・認知が障害されて起きると考えると理解しやすくなります。
まとめ
高次脳機能障害の理解の鍵は基本的なことを暗記することです。
基本的用語を知っていれば、患者さんに起きている現象と診断名や画像などの情報からある程度予測できます。
少なくとも認知症と区別できますし、患者さんのことを理解することにつながります。
これは患者さんとの信頼関係を築く上で重要であるとともに、他職種と情報の共有する上でも重要であるといえます。
より理解を深めたいかたは、たくさんのイラストでわかりやすく整理されている、以下の文献も参考にしてみてください。非常にわかりやすい書籍で、脳などの中枢疾患の理解におすすめです。
参考:
『病気がみえるvol.7脳・神経 第1版』岡庭豊.メディックメディア.2015