鍼が痛みに効くのはなんで?鎮痛効果の機序まとめ
鍼は鎮痛効果があると言われますが、どのようなメカニズムにより鎮痛がおこるのでしょうか。
現在よく言われている仮説や報告について簡単に概要をまとめてみます。
内因性オピオイドによる鎮痛(鍼麻酔の機序)
中枢神経(脳・脊髄)には生理的に痛みをコントロールする部分があります。
その部分は「オピオイド受容体」と呼ばれています。
そこに神経伝達物質の一種である「内因性オピオイド(エンケファリン類やエンドルフィン類等)」というものが結合し、鎮痛効果を発揮します。
この「オピオイド受容体」やそれに結合する「内因性オピオイド」は、元々麻薬(あへん類)の効果機序として研究されていたもので、そこから鎮痛機序が発見されました。
ちなみにオピオイドとは、あへんをオピウムというため、そこから付けられた名前です。(あへんにはモルヒネが含まれているため、モルヒネの様な物質という意味)
なので少し乱暴ですが、「モルヒネ様の鎮痛物質=オピオイド」という理解でいいと思います。
また「内因性」とは生体内で作られるということです。
つまり生体内にはもともと内因性の鎮痛の機構が備わっています。
これを活性化することで鎮痛しようというものが鍼麻酔(鍼鎮痛)として知られています。
ただし、この鍼鎮痛が発現するには条件があり、10~30分の持続した筋収縮を起こす程度の電気刺激(1~3Hz)である必要があります。
効果は20~30分持続します。
この鎮痛に関わる受容器はポリモーダル受容器といわれ神経線維はC線維が考えられています。
下行性痛覚抑制系
これは先程の「内因性オピオイド」が下行性に作用する機序を説明したものです。
経路としては、脳幹から神経線維が脊髄後索を下行して、脊髄後角で痛みの伝達を遮断します。
これは、中脳や延髄のオピオイド受容体が活性化されると作動します。
この経路には種類があり、ノルアドレナリンやセロトニンを伝達物質とする二つの下行性痛覚抑制経路がよく知られています。
またこの下行性疼痛抑制系はオピオイド以外にも、精神的な興奮や恐怖でも作動します。スポーツ選手が怪我をしても結果を出すのはこのためです。
ゲートコントロール説
セラピストとしては最もよく聞く鎮痛機序の仮説ではないでしょうか。
これは太い神経線維(触圧覚:Aβ線維)と細い神経線維(痛覚:C線維)という感覚の経路の違いに着目して、太い神経線維からの入力が細い神経線維からの入力を抑制するゲートのような機構が脊髄にあり、痛みの感受性をコントロールしているのではないかという仮説です。
痛いところをさすると痛みが和らぐという現象を説明できる仮説として広く臨床家に受け入れられました。
これは電気治療やマッサージ、鍼の効果機序として言われていますが、立証はされていません。しかし、臨床では事実としてその効果があることから説明のためによくこの理論が使われます。
広範性侵害抑制性調節(DNIC)
これはゲートコントロール説とは違い、痛みで痛みを抑制する現象を言います。体は複数の場所に痛みが起きた場合、一番緊急を要する痛みが優先されて、その他の痛みが後回しになるという仮説です。
また、内因性オピオイドによる鎮痛との違いは、鎮痛効果が刺激開始直後に現れる点といわれています。
これは鍼治療の鎮痛効果の説明として一番近いものになると思います。
ただしこの仮説も電気治療や鍼灸、トリガーポイントなどの効果機序と言われていますが、まだ立証はされていません。しかし、臨床では効果が認められているため仮説や報告が積み重ねられています。
まとめ
今回は鍼による鎮痛の機序を簡単にですがまとめてみました。
仮説段階でまだ実証されていないものもありますが、これらの内容が重複して鎮痛が起こっていると考えられます。
以下の記事に続きます。
参考:東洋療法学校協会:はりきゅう理論,医道の日本社.2002.