鍼の効果とは?鎮痛以外の効果についてのまとめ
鍼や灸というのはなぜ効くのでしょうか?
鍼灸により何が身体で起こっているのかまとめてみました。
前回の鍼鎮痛の記事と合わせて読んでみてください。
効果のきっかけは炎症
じつは、鍼を刺すということは筋線維に微細な損傷を起こしています。
また、灸は燃焼により軽度の火傷を起こしています。こう聞くと怖いかもしれませんが、マッサージ程度の刺激でも筋は損傷しますし、軽度の炎症を起こすことは生体に変化を起こすきっかけになります。
ではこのような軽度の炎症がどのように鍼灸の効果につながるのでしょうか。
じつはこの軽度の炎症が引き金となって様々な反応が起こります。
①生体防御機構が反応する。
生体防御機構とは免疫のことです。鍼灸は免疫機能への作用もあります。
生体の組織が破壊されるとそれは異物とみなされ貪食細胞(マクロファージ)が遊走しそれを取り除こうとします。
研究では鍼刺激により血中へのT細胞やNK細胞の移行が促進されることなどが報告されていて、その機序として自律神経を介して作用している可能性が示唆されています。
これについては現在も多くの研究が進行中でメカニズムは解明しきれていません。しかし、臨床的にはこの効果について広く認知されています。
②筋の過緊張を緩和し血流をよくする。
筋への刺激で起こる反応です。これは「軸索反射」と呼ばれている作用で、鍼灸の効果として最も有名なものです。
筋の過緊張は血流を減少させます。
血流が減少すると疼痛が発生し、逆に血流が改善すると疼痛は改善します。つまり、疼痛のある骨格筋の過緊張と筋内血流を改善させればその痛みも改善します。
この血流の改善は視覚的にも確認できます。
要は鍼を刺した後にそのまわりが赤くなることを指しており、このことを紅斑(フレア)と言います。
これは軸索反射が起きている目安になります。
この反応を鍼により起こせることは研究により証明されています。
さらにそのメカニズムについてもatropineという物質の投与による研究で、鍼によって刺激された「神経終末」が軸索反射により「コリン作動性の交感神経末端」に影響を与える機序が考えられています。
また、capsaicinの投与による研究では、軸索反射に関わる神経伝達物質はsubstancePとcaltitonine-gene-related peptide(CGRP:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)であることが考えられています。
上記の内容をまとめると、
①鍼による組織の損傷が引き金となり、「軸索反射」が起こりC線維の神経終末からsubstanceP、CGRPが分泌される。
②この2つの神経伝達物質は骨格筋にある交感神経コリン作動性の血管拡張のシナプスに作用し、アセチルコリンの分泌を高め骨格筋の血流量の改善が起こる。
(交感神経節後線維の神経伝達物質は通常のノルアドレナリンですが、骨格筋の血管拡張や汗腺では例外的にアセチルコリンです。)
③同時にポリモーダル受容器(C線維に対応する感覚受容器)は感覚を中枢神経に伝えて、その結果、鎮痛作用や上記の自律神経系、内分泌系、免疫系にも影響を与える。
これらが作用機序のおおまかな流れとなります。
まとめ
鍼灸の効果機序についておおよその仮説は以上のようなものとなってきています。
鍼は痛みを緩和するだけでなく、自律神経への作用から免疫機能への影響を与えたり、筋の過緊張を緩和して血流をよくしたり、様々な作用があります。
その効果は日々研究による報告が積み重ねられ、徐々にわかってきています。
今後さらにその効果が明確になってくる日も近いかもしれません。
参考:東洋療法学校協会:はりきゅう理論,医道の日本社.2002.