臨床実習で重要!バランス能力と転倒リスクの評価。
臨床実習の評価で重要にな検査の1つとして「バランス能力の評価」や「転倒リスクの評価」があります。
今回その中でも、学生が実習でよく使うものをまとめてみました。
片脚立位時間
単純に片脚立ちでどれくらいの時間保持できるかを計測する検査です。
できれば平行棒内で実施して転倒リスクを最小限にしておきます。
検査は必ず左右で実施し、片脚立位保持の時間を比較します。また、終了したときの様子も観察して記録しておきましょう。
例えば「体幹の動揺により、平行棒に右手をついて終了した。」などです。
文献によると15秒以内が転倒リスクのカットオフ値です。
具体的な検査方法としては、両手を腰にあてて検査側と反対の足が地面から離れた瞬間から計測します。
手が腰から離れる、ステップしてしまい検査側の位置がずれる、検査側以外の部分が床や平衡棒に触れてしまったら計測を終了します。
上限は60秒で大丈夫です。健常者であれば何分も保持可能となってしまうため予め上限値は考慮しておきます。
また可能であれば開眼・閉眼両方とっておくと考察の材料になります。
高齢者では閉眼は難しい場合が多くなるので、開眼のみしか計測できない場合も多いのでその場合は開眼のみで大丈夫です。
バランス能力の検査は、数値をカットオフ値と比べ転倒リスクの有無を考えることも重要ですが、その原因を考察していく事がもっと重要になります。
原因を考察するためには材料が必要になります。その材料とはMMTやROM、形態計測、感覚検査、疼痛検査など基本的な検査です。
これらの要素を加味して、なぜバランスが保てないかを考えることが重要です。
【準備】
①ストップウォッチ
②記録用紙
③場所の選定
④リスクの把握
上肢到達距離functional reach (FR)
立っている状態から、どれだけ前に手を伸ばせるかを測定する検査です。そのため測定体するのは距離になります。体も前に倒して手も出来るだけ前に伸ばします。
病院では壁を利用して行うことが多いです。検査者はまず事前にスタートの点を決めておき、壁に目印をつけておきます。
患者さんは直立した状態から、壁側の上肢を肩関節90°挙上位まであげます。この時、拳を軽く握り第三中手骨がスタートの点にちょうど合うようにセッティングします。
靴や靴下は脱いでできれば裸足が望ましいです。
閉脚ではなく自然な開脚立位で大丈夫ですが、検査中に踵が地面から離れないように事前によくアナウンスしておきます。ここがポイントで検査中もし踵が離れればやりなおします。また検査中の体幹の軽度の回旋は許容することになっています。
3回行って最大の到達距離を測ります。
またこれも左右行い比較することが重要です。
文献によると15cm未満で転倒リスクが高いとされています。
参考:奈良勲.他:図解理学療法検査・測定ガイド,文光堂.2014.²⁾
FRも片脚立位時間と同様に基本的な検査の数値との関わりが重要です。
そこから考察のヒントがたくさん生まれてきます。バランス能力は転倒リスクとの関わりが深いため、患者さんが転倒しないためにどうしたらいいか考えるケースでは考察の軸になってきます。
また実習では、患者さんの動作観察の中からどの検査が最適なのか考えて検査に優先順位をつけることも重要になってきます。
一番いいのは自分で考えた後にバイザーの先生に相談して、決定する事です。
自分で勝手に決めて実施するのは絶対にだめですし、逆に考えずに相談するのもだめです。
検査する前にもいろいろ情報を得ているはずなので、その中から考察を加えておきます。考察する上で情報が足りなければ何が知りたいか伝えましょう。
分からないからといって自己完結すると、ドツボにハマります。
よく積極性がないとか、報連相ができないとか言われるのはなんかこの辺のような気がします。
【準備】
①スタートとストップの位置を記録するためのシール
②メジャー
③記録用紙
④場所の選定
⑤リスクの把握
10m歩行
10m歩行はバランス検査ではありませんが、転倒リスクや歩行の実用性を確認できます。バランス能力を考えるとき、歩行能力を高めることが目的のケースであれば考察する上で関わりが強くなってきます。
歩行観察をするようなケースでは、一緒に計測しておきましょう。
10m歩行では、事前にどのような歩行様式で実施したのかを記録しておきます。(例えば杖歩行なのかピックアップやシルバーカーなのか)
ポイントはスタートとゴールを明確にしておくことです。
だいたいどの病院でもリハ室に10m歩行用の線がひいてあるので、例えばその線を過ぎてからスタートし、その線を過ぎてストップすると決めておきます。
実際計測してみると、意外と線の手前なのか、線を踏んだときなのか、線を越えた時なのかスタート、ストップのタイミングを迷います。
またバイザーから再現性はあるのかを求められることがあります。その時の根拠として詳細に決めておき説明できることは重要です。
実際に初期評価と最終評価で測り方が違った場合、考察と結果の辻褄があわなくなり困るケースもよくあります。
計測は10mの前後に助走の分の1mを入れます。そのため10mの線の前後にもう一つずつ線があります。患者さんのはその線を意識しておいてもらい、実質12m歩いてもらうことになります。
逆に計測者は10mの線に注目して計測します。
計測するのは歩数と時間です。同時にやらなければならないので、割と集中しないといけません。慣れてくれば余裕が生まれて歩行も同時に観察できます。
文献によると、10m歩行のカットオフ値は、屋外を自立して歩けるレベルは12.5秒以内です。屋内の歩行のみのレベル25秒以内となります。
【準備】
①ストップウォッチ
②記録用紙
③12mの場所の確保(助走区間、10mの計測区間にそれぞれ線を引いておく。場合によってはメジャーを準備する。)
④リスクの把握
time up and go (TUG)
TUGは椅子から立つ、座るという動作や歩行、そして実際の生活でも転倒リスクになりやすい方向転換が含まれています。
複合的な動作で、生活上の重要な動作が含まれているため、バランス検査の中でも多くの情報を得られる検査となります。
準備としては手すりつきの椅子と3mの距離にコーンを立てておきます。
また、事前に歩行様式とどっち回りかを記録しておきます。計測は時間のみです。
ポイントはスタートとストップをどのタイミングにするか記載しておくことです。
例えば「殿部離床のタイミングでスタートする」などです。
10m歩行でも言いましたが、再現性は重要です。
TUG自体は時間のみの計測ですが、必ず動作観察もしましょう。また方向転換時に転倒リスクに十分注意しましょう。
転倒する危険の高い検査ですので、バイザーに予め付き添ってもらうよう相談しておくことも大切です。
文献によると、TUGは13.5秒が転倒ハイリスクのカットオフ値です。
参考:津山直一.他訳:新・徒手筋力検査法原著第9版,協同医書出版社.2015.⁴⁾
【準備】
①手すり付きの椅子
②コーン
③ストップウォッチ
④記録用紙
⑤3mの場所の確保(計測するためのメジャーの準備。)
まとめ
今回は片脚立位時間、functional reach (FR)、10m歩行、time up and go (TUG)について紹介しました。他にもfunctional balance scale(FBS)もよく使われます。
実習では検査測定をする上で、再現性の有無と検査自体の解釈が重要となってきます。
また学生では基本的な検査のアセスメントとの関連から考えていくと考察を組み立てやすいと思います。出来れば一つ一つの検査ごとにアセスメントの文章を作っておき、それを材料に考察や統合と解釈していくと、混乱は少ないと思います。
よろしければ参考にしてください。
参考:
1)丸山 仁司:高齢者の運動機能と理学療法,理学療法ジャール.43(10).2007.
2)奈良勲.他:図解理学療法検査・測定ガイド,文光堂.2014.
4)津山直一.他訳:新・徒手筋力検査法原著第9版,協同医書出版社.2015.