柔道整復師は必修。骨折の基本知識まとめ。
今回は、柔道整復師の専門分野の一つとなる「骨折」について、基本的な知識を整理します。
骨折の定義
骨折は「骨強度を上回る外力が加わり生じる、骨の連続性が断たれた状態」と定義されています。強い外力や繰り返す外力、骨の脆弱性の進行などにより起こります。
骨折の症状
①腫脹
②圧痛(Malgaigne圧痛点)
③機能障害
④変形
⑤異常可動性
⑥轢音
⑦皮下溢血斑(※溢血斑とは紫斑のこと)
骨折の合併症
骨折は様々な合併症のリスクがあります。以下に主要なものをまとめます。
1)全身合併症
・急性期…①出血性ショック
②脂肪塞栓症候群
③播種性血管内凝固症候群(DIC)
④深部静脈血栓症(DVT)
⑤肺塞栓症(PE)
・晩期… ①外傷後神経症
2)局所合併症
・急性期…①隣接臓器損傷
②皮膚・筋・腱損傷
③血管・神経損傷
④コンパートメント症候群
⑤ガス壊疽・破傷風
⑥感染
・晩期… ①偽関節・遷延治癒・変形癒合
②阻血性骨壊死
③関節拘縮、volkman拘縮
④外傷性骨化性筋炎
⑤慢性骨髄炎
⑥sudeck骨萎縮(反射性交感神経性ジストロフィー:RSD)
⑦外傷後関節症
⑧骨の発達障害(小児)
出血性ショック
ショックは末梢血管が拡張して血流の停滞が起こる場合と、体液や血液などが急激に失われた場合に起こり、心臓が適切な拍出量を維持できないために様々な症状を呈する状態です。
ショックは原因により名称が異なりますが、外傷直後に起こるショックは出血による低用量ショックでであるため出血性ショックと言われます。
典型的なショックの5徴候は①顔面蒼白②虚脱③冷汗④脈拍消失⑤呼吸不全の5つですが、他にも血圧低下、頻脈、四肢冷感、低体温なども見られることがあります。
また、ショックが重篤になったり長期になると意識障害、代謝性アシドーシス、尿量減少、高乳酸血症などを伴います。
緊急時の対応は、気道を確保し、心臓マッサージによる生命維持を優先します。また同時に足をやや高く上げ、頭を少し低くし脳循環を確保して医師に連絡します。
脂肪塞栓症候群 (肺塞栓、脳塞栓、腎塞栓)
骨折患者の1~5%に発症すると言われています。肺・脳・腎蔵などに脂肪による塞栓が生じ、多彩な症状を呈します。それぞれ肺塞栓、脳塞栓、腎塞栓と名前が変わります。
骨盤骨折や、下肢骨折を合併する多発外傷で発症しやすいと言われいますが、軽傷患者にも起こる場合があるため注意が必要です。
急性期は適切な処置が施されないと致命的で、死亡率は10~20%程度といわれており施術は禁忌です。
メカニズムとしては、骨折部の骨髄から流れ出した遊離脂肪滴が静脈内に入り、肺・脳・腎臓などに塞栓をきたすと考えられています(機械説)。※しかし、現在は脂質代謝説が有力とも言われています。
受傷後12~48時間の潜伏期を経て発症します。しかし、潜伏期を経ず、受傷直後から全身の臓器に広範な脂肪塞栓を形成し、急速に死の転帰をとる電撃型もあるため注意が必要です。
初期症状は発熱・頻脈で、症例の半数に前胸部、腋窩部、結膜などに点状の出血斑が出現します。肺塞栓では、X-Pで両肺野に特有の吹雪様陰影を認め、聴診で湿性ラ音を聴取します。
深部静脈血栓症:DVT 肺塞栓:PE
下肢の深部静脈に血栓が生じた場合を深部静脈血栓症(DVT)といい、肺に血栓が飛んで塞栓を生じることを肺塞栓(PE)といいます。DVTはPEを生じることがある危険な疾患です。
血栓は、血流遅延、静脈壁損傷、血液凝固能亢進などの原因により、下肢の深部静脈に起こります。
下肢の深部静脈とは、大腿~下腿にかけての下大静脈、総腸骨静脈、外腸骨静脈、総大腿静脈、深大腿静脈、浅大腿静脈、膝窩静脈、前脛骨静脈、後脛骨静脈、腓腹静脈などです。膝より上に血栓がある場合はよりリスクが高く注意が必要です。
どんな時に起こるかというと、手術・妊娠・重度外傷などが有名です。
特に股関節、膝関節などの手術後に多く起こります。
外傷では、多発外傷、脊髄損傷、重症骨盤骨折、多発性下肢骨折、複雑な下肢骨折は高リスク群となります。
深部静脈血栓症が疑わしい場合には血液検査(Dダイマー)や画像検査を早期に行います。セラピストはDダイマーの値を目安にしますが、特異度が低く(他の状態でも陽性となってしまいやすい)、Dダイマーが高値でも必ずしもDVTとは限らないことに注意が必要です。
また下肢の浮腫や、Homans徴候の所見が有名ですが、無症状のDVTもあるため完全には把握しきれません。
※Homans徴候とは、膝を伸展した状態で足関節を背屈すると、非腹部に疼痛を生じるという徒手検査です。
そのため病院では術後に必ず適切な予防が行われ、リスク管理も徹底しています。
予防としては「等尺性筋収縮訓練などにより静脈のうっ帯を防止する」「弾性ストッキングを着用する」「足底の間欠的空気圧迫」などが有効です。
ただし予防であるため、DVTになってしまってからでは血栓が飛びやすくなるため禁忌となります。
静脈血栓があることに気づかず下肢の運動をしたり、駆血帯を用いて下肢の手術をした際に、血栓が飛んで肺静脈に塞栓を起こし致命的となることがあるためリスク管理が重要です。
DVTは、外傷後の安静期間を経て、下肢を下垂した時に気づかれる事が多いと言われています。一般的には、血栓の発生する部位によって症状は異なりますが、下肢の腫脹・浮腫・発赤・疼痛などがあれば深部静脈血栓症を疑います。
診断は超音波、静脈造影、造影CTなどにより行われます。
高リスク患者では出血リスクがなくなり次第、凝固因子の阻害薬(へパリンなど)を投与します。
リハビリの実際としては、予防としては早期離床や足関節の運動、下肢の圧迫などリハビリが効果をあげられる部分が多く積極的に介入します。
DVTが生じてしまった状態では、DVT後1~2週間は安静にすることが多いと言われていますが、近年では運動は必ずしもPE発生リスクを高めないとする報告もあり、抗凝固療法実施中であれば必ずしも安静にする必要はないとの考えもあります。
実際は医師に相談し、指示をもらいながら実施していくことになります。
いずれにしてもDVTを生じている場合、PEのリスクを常に意識しておくことが重要です。
骨癒合不全(偽関節)
「骨折部の癒合機転が止まってしまったもの」と定義されています。
概ね骨折後6~8ヵ月たっても癒合しない場合をいいます。
骨癒合不全では骨折端は萎縮して、骨髄腔は硬化した骨で閉鎖されてしまい癒合は終了しています。また、骨折した部位にできた間隙は、線維性の瘢痕組織で満たされ異常可動性を認める。これを偽関節といいます。
骨癒合不全は、不十分な固定、感染、骨欠損などが原因となります。
遷延治癒
「骨折治癒に必要と予測される期間を過ぎても骨癒合がみられないもの」と定義されています。骨がなんらかの理由でなかなかくっつかず治癒が遅れている状態です。
理由としては、不十分な固定によるものがほとんどです。
遷延治癒は、その名前の通り、あくまで、治るのが遅れている状態です。治癒過程は残存しているということがポイントです。
変形癒合
「解剖学的形態と異なった異常な形態で癒合が完成したもの」と定義されています。
整復位不良のまま固定が行われた場合や、整復位が保持できなかった場合などに角状変形(くの字になった状態)、回旋変形、短縮などが起きる場合があります。
特に回旋変形は自家矯正されないので注意が必要です。
まとめ
今回は骨折の定義・症状と、主要な合併症についてまとめてみました。
骨折は他の外傷との鑑別も重要ですが、セラピストとしては合併症の理解がより重要です。特にDVT、PEについては理解しておく必要があります。
以下の記事に続きます。
参考:
標準整形外科第12版,医学書院.
柔道整復学 理論編 改訂第4版,南江堂.