【理学療法士】脳卒中のリハビリってどんなことするの?
脳卒中といえば麻痺のイメージがあると思います。
しかし、じつはそれだけではありません。脳卒中では病態によって様々な症状が現れます。
そのため、リハビリを進めるためには、まず脳卒中の病態を理解して、患者さんの状態を把握することが重要です。
今回は「脳卒中のリハビリ」や「脳卒中の病態」について、概要をまとめてみました。
- 脳卒中のリハビリってどんなことするの?
- そもそも脳卒中って何?
- 脳出血
- クモ膜下出血
- 脳梗塞
- 血行力学性機序による脳梗塞
- ラクナ梗塞でも危ない場合がある
- 脳循環自動調節能(autoregulation)
- 片麻痺はどの疾患で起こるの?
- まとめ
脳卒中のリハビリってどんなことするの?
理学療法士が行うリハビリの多くは整形外科疾患と中枢疾患になります。
その中枢疾患で最も多いのが脳卒中です。
要は脳の血管から出血したり、脳の血管が詰まることです。
血管が詰まるという事は神経に栄養が行かなくなるので、障害された血管に対応する部分の脳細胞が死んでしまいます。
これがとんでもない問題を起こしてしまいます。
じつは末梢神経といわれる四肢などの神経は条件を満たせば再生することができます。
ところが、脳や脊髄といったいわゆる中枢神経は再生することができません。
そのため一度細胞が死んでしまうとそのままです。
なので重篤な後遺症が起こることになります。
例えば身体の運動をコントロールしている部分がやられたら、手足が麻痺したりします。他にも言語をコントロールしている部分がやられると、言葉を話せなくなったり、言葉を理解できなくなります。
脳は様々な身体の機能をコントロールしているので、障害される場所によって複雑な症状が現れます。そのことについては以下の記事に書いています。
では脳細胞は再生しないのに、なんでリハビリで脳卒中の症状は改善するのでしょうか?
これには諸説あります。
例をあげると、
①上位の中枢が障害されると下位の中枢がそれを補う(階層的機能再現説)
②中枢神経が障害されると神経の連絡路を通じて「遠隔部の神経細胞」の機能も抑制される。その抑制が時間がたつにつれて解除され機能が回復する(機能解離説)
③障害された脳の周辺や反対側の対応する部分が機能を代行してくれる(機能再組織説)
などの説があります。
どの説も脳神経の細胞が回復するのではなく、周りの神経による補填や、まだ生きている部分の細胞の回復といった周辺の状況変化による回復です。
そのため、回復には限界があります。
また、脳の「どの場所」が「どの程度」障害されたかで、同じ脳卒中といえども重症度は全く違います。
なので、どれくらい早く病院に搬送されたのかも回復の限界点に大きく影響してきます。
この条件によってリハビリのゴールも変わってくることになります。
また、上記のような「脳の回復」という観点だけでなく、早期のリハビリは「合併症予防」に効果が高く、急性期では特に重要視されています。リハビリ病院のような回復期の病院だけでなく、救急をとっているような急性期の病院でもリハビリは行われます。
そしてリハビリの役割で、もっとも重要なのが「廃用症候群の予防」です。
じつは脳の問題だけなく、廃用症候群によって日々身体機能は低下してしまいます。
回復を促しながら、廃用の進行を食い止めることもリハビリの重要な役割です。
以上のような内容のリハビリを行い機能が回復したら、次はその能力をつかってどう生活するのかを考えていきます。
例えば麻痺した側を治すことより、使える側の手足の使い方を指導することが重要な場合もあり、患者さんの状態を総合的に考えて今後を予測します。
様々なことを総合的に判断して、最終的に患者さんが退院後の生活で困らないようにサポートすることがリハビリの仕事です。
では、そんなリハビリを行う脳卒中ってそもそもどんな疾患なのでしょうか。
以下にまとめてみます。
そもそも脳卒中って何?
脳卒中は「脳血管障害」ともいわれます。
血管が詰まったり、血管から出血したりして、突然に脳の症状がでるものを総称したものです。
以下にそれぞれ説明していきます。
脳出血
脳内の血管から出血することです。
この出血の主な原因は高血圧です。高血圧は生活習慣との関わりが強いため、生活習慣病もリスクになります。
脳内で出血してしまうと、出血が血腫となり脳を圧迫してしまいます。これにより、脳の症状がでてしまいます。
脳出血の好発部位は、①被殻②視床③小脳④脳幹(橋)⑤皮質下です。
通常出血が多ければ、血腫除去術という手術で血腫を取り除くのですが、脳幹と視床ではそれが行えません。脳幹は近くに内包という重要な部分があり、視床では生命維持に関わる中枢があるため、侵襲することでリスクがあるためです。
そのため、これらでは重症となる可能性も高くなります。
脳出血は典型的な運動麻痺や感覚障害、失語などの症状が生じます。
とはいえ、その症状は出血する場所によって様々です。
どの要素が強くなるかはかなり個人差があります。
クモ膜下出血
クモ膜下出血とは、脳の表面にある血管から出血して、クモ膜下腔に至った場合をいいます。
突然の激しい頭痛が特徴とされ、意識障害や頭蓋内圧亢進の症状(嘔吐など)がでます。
原因は脳動脈瘤が80%で、そのほとんどを占めます。その他、脳動脈奇形、もやもや病、外傷も原因となることがあります。
この脳動脈瘤の好発部位は、ウィリスの動脈輪の分岐があるところです。例えば、前交通動脈のところや、内頸動脈から後交通動脈が分岐するところ、中大脳動脈が分岐するところなどです。
合併症も重要で、①再出血②脳血管攣縮③正常圧水頭症の三つが三大合併症と言われます。この管理がとても重要になります。
というのも、クモ膜下出血自体では生還すれば後遺症は比較的少ないのですが、これらが起こってしまった場合、脳梗塞などと同じような重篤な後遺症を残すこともあるからです。
【脳血管攣縮】
クモ膜下出血後の4日~2週間以内に生じやすいとされています。そのため離床は、血管攣縮期(2週間)を避けて実施する必要があります。またリハビリでは運動誘発性の高血圧に注意が必要です。
この脳血管攣縮がなぜ危険かというと、約半数に脳梗塞が出現するためです。
クモ膜下出血で生還してもその後、脳梗塞の後遺症に悩まされるケースも少なくありません。
クモ膜下出血の慢性期によく起こるとされています。
脳室は拡大するのに、髄液の圧は正常範囲に保たれている成人の水頭症です。
実際は髄液圧がやや高値になることも少なくないようですが、一般的な特徴は上記になります。
初発しやすい歩行障害に加え、認知症、尿失禁の三徴候が有名です。
画像と症状に加え、CFSタップテストという髄液を抜いてみて症状が改善されるかをみるテストで診断されます。
これがなぜ重要かというと、歩行を評価することの多い理学療法士が、見つけることがあるからです。急な認知症や歩行障害には注意する必要があります。
もし、CFSタップテストで症状が改善した場合、髄液シャント手術が行われます。
脳梗塞
脳梗塞とは、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症の三つがあります。
また、脳梗塞はその発生の機序から、
②塞栓性機序(脳塞栓)
③血行力学性機序
の三つに分けられます。
「脳血栓」はラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞でみられ、「脳塞栓」は主に心原性脳塞栓症やアテローム血栓性脳梗塞でみられます。
【脳血栓】
脳自体の血管に動脈硬化がある場合をいいます。
疾患としては、ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞のことをいいます。
「ラクナ梗塞」とは、細動脈がつまった場合をいいます。細い動脈とは穿通枝の末端のことで、つまる動脈が小さいので小さな梗塞となります。直径15mm以下とされています。そのため少しであれば症状が無いこともあります。
高血圧のある高齢者で多く、たくさん起こると脳血管性認知症やparkinson症候群の原因となったり、場所によっては軽度の運動麻痺、感覚障害などが起こることもあります。
比較的軽症の脳梗塞です。
「アテローム血栓性脳梗塞」とは、大動脈がつまった場合をいいます。主幹動脈といわれるメインの動脈がつまっておこります。例えば内頚動脈や椎骨動脈・脳底動脈、中大脳動脈などです。要はウィリスの動脈輪に含まれるようなメジャーなところがつまります。
そうすると、そこからの枝すべてに血流がいかなくなるので、ラクナ梗塞に比べて大きな梗塞になります。
そのためいわゆる典型的な運動麻痺や感覚障害、失語などが生じます。その症状は詰まる動脈によって様々です。
アテロームとは動脈硬化のことで、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙者などの生活習慣病がある人がリスクになります。アテロームにより血管が狭くなり、それにより血流が滞留して血栓ができます。
動脈硬化から起こるため、徐々に進行していく傾向があり、いきなり詰まるのではなく、詰まった後に開通する場合もあります。その場合、「一過性脳虚血発作:TIA」といい、これがみられればすぐに病院へいく必要があります。
またアテロームが形成された部分を補うために、側副血行路が形成される場合もあります。その場合は血圧低下により虚血状態になっただけでも、脳梗塞になる場合があり注意が必要です。これを「血行力学性機序」といいます。
【脳塞栓】
脳自体の血管に動脈硬化がない場合をいいます。つまり、脳より手前の血管に動脈硬化があって、そこから血栓が飛んできて詰まるものをいいます。
先ほどのアテローム血栓性脳梗塞でも、脳内の血管がアテロームで狭くなっているところに血栓が飛んできて詰まる場合があります。
そしてもう一つ重要なのが、「心原性脳塞栓症」です。これは、心房細動が原因で血栓が作られて、それが脳内に飛んで詰まる場合を言います。
これはアテローム血栓性脳梗塞と違い、急激に詰まって完成するため、側副血行路も形成されておらず、重症になることが多いと言われています。
そのため、不整脈(心房細動)や弁膜症などの心疾患を持っている人と非常に関わりが深い脳梗塞です。
この心原性脳塞栓症は突然詰まるため、血栓を溶かす物質が急激に作られて再開通することがあります。しかし脳梗塞によって弱くなった血管に、再開通して血流が流れると出血が起こり、より症状が重篤になることがあります。
これを「出血性梗塞」といい、発症数日はリスクとなります。
血行力学性機序による脳梗塞
血行力学性機序とは、要は脳灌流圧の低下による脳梗塞です。
部位としては「分水嶺領域」で起こりやすいと言われています。
分水嶺領域とは前大脳動脈と中大脳動脈の境界部や中大脳動脈と後大脳動脈の境界部などのことで、分水嶺とは山からの水流の分かれ道のことです。
脳灌流圧が下がった場合、ここが虚血に陥りやすいため脳梗塞ができやすいと言われています。
ここで生じる脳梗塞を「分水嶺領域脳梗塞」と表現したりします。
話が脱線しましたが血行力学性機序とは、主幹動脈に狭窄によって血管拡張や側副血行路形成が起こり、それによりかろうじて血流が保たれている状態に、「血圧低下」が加わって起こります。
この状態に血圧低下が加わると、脳血流も低下して、結果的に虚血を起こした部位が脳梗塞になってしまいます。
アテローム血栓性脳梗塞では、緩徐に進行することが多く、その場合側副血行路が形成されている場合が多いです。そのためこの血行力学性機序がみられる場合があります。
ラクナ梗塞でも危ない場合がある
ラクナ梗塞とは通常15mm以内の小さな脳梗塞です。そのため軽度の症状に留まることが多く、早期に離床できます。
しかし、このラクナ梗塞の中にはBADタイプという経過の悪いものが存在します。
BADタイプは治療抵抗性で進行性に梗塞巣が大きくなってしまいます。
ラクナ梗塞は通常、穿通枝の末端で起きますが、このBADタイプでは根元で詰まってしまいます。そのため、経過とともにそこから末梢に徐々に梗塞巣が広がっていきます。
梗塞巣が大きくなれば、アテローム血栓性脳梗塞と同じく、運動麻痺などの後遺症が重篤になる場合があります。
また通常のラクナ梗塞であっても、小さな梗塞巣が多発することで重症化する場合もあります。この場合「多発性脳梗塞」と表現されます。
ラクナ梗塞といっても一括りに軽症であるとは言えず、経過に注意が必要です。
脳循環自動調節能(autoregulation)
健常者では、全身の血圧が変動してもそれに影響されず、脳の血流は常に一定に保たれています。この機能を「脳循環自動調節能」と言います。
脳は虚血が起こると損傷が起きてしまうため、血流が常に供給される必要があります。また、脳の細胞は損傷すると回復できないため、この「脳循環自動調節能」とても重要になってきます。
しかし、脳卒中の急性期では病巣とその周辺部でこの機能は障害されます。そのため全身の血圧変動に脳血流が影響されるようになってしまいます。
つまり全身の血圧が下がれば脳血流も一緒に下がってしまいます。
脳血流が下がるということは、虚血になっている病巣やその周辺の血流がさらに低下し悪化を招きます。
例えば脳梗塞の急性期などでは、血圧を高めで維持するなどのリスク管理が必要になってきます。
急性期では、血圧が下がると、脳の損傷が悪化してしまう場合があることを知っておく必要があります。
片麻痺はどの疾患で起こるの?
典型的な脳の症状といえば片麻痺をイメージする人も多いと思います。
この片麻痺は、運動麻痺によっておこります。
脳卒中の中でも較的大きな損傷となる脳出血やアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症などにより起こる場合が多くなります。
これらの原因により、運動神経の経路のいずれかに損傷があった場合、その反対側の上下肢に片麻痺を呈します。
まとめ
今回は、急性期における脳卒中のリハビリの概要と脳卒中の病態についてまとめました。
脳卒中では病態により様々な症状が起こり、急性期ではそのリスクを管理しながら安全にリハビリを行えるということ自体が、医療職としての重要な役割になります。
知識がなければ、安全に動かすことはできません。
この時期を脱して、廃用をできるだけ抑えた状態で回復期病院などにバトンタッチします。
そして回復期病院では、より積極的なリハビリが行われます。
状態がある程度安定しているため、ここからが本格的なリハビリとなります。
参考:
『病気がみえるvol.7脳・神経 第1版』岡庭豊.メディックメディア.2015
脳卒中のリハビリについてより臨床的なことは、以下の理学療法士Takaさんの記事が非常に勉強になります。
臨床経験がないと書けないポイントをおさえた内容に加えて、おすすめの書籍なども紹介してくださっていて、とても読みやすいのでおすすめです。