イニシャルコンタクト(initial contact:IC)初期接地まとめ【歩行分析】
イニシャルコンタクトとは
イニシャルコンタクト(以下IC)とは、歩行の最初に踵が地面に接する場面を言います。
つまりICとは歩くために振り出した足が地面に「初期接地(イニシャルコンタクト)する瞬間」ということです。
歩行観察では、ここを歩行周期のスタートとしています。
歩行周期とは立脚期(支えてる時期)と遊脚期(振り出している時期)からなり、ICはこの立脚期の始まりの場面となります。
このICですが、昔は「踵接地」と言われていました。
しかし、必ずしも踵から接地できる人ばかりではないため、現在、歩行分析で主流となっているランチョ・ロス・アミーゴ式ではIC(初期接地)と表現されています。
(ランチョ・ロス・アミーゴ式とは臨床歩行分析のメッカと言われるロサンゼルスのランチョ・ロス・アミーゴ国立リハビリテーションセンターで考えられた方法です。)
イニシャルコンタクトの役割
イニシャルコンタクト(以下IC)では2cmもの重心の落下があると言われています。
そのため、落下の衝撃に耐えるためのアライメントを作らなければいけません。
また、このアライメントがその後の立脚期の安定や前方への推進力に影響するため、ICでしっかりと下肢のポジションを作ることも重要となってきます。
つまりICの場面で求められる機能は、「①踵接地の衝撃に耐えること」と、「②下肢のアライメントを保つこと」の2つとなります。
このときの下肢のアライメントは、股関節屈曲20°、膝関節屈曲0~5°(ほぼ完全伸展位)、足関節中間位、距骨下関節外反位です。
なぜこのような肢位をとるのでしょうか。
そしてそれがなぜ衝撃に耐えるために有利なのでしょうか。
歩行のそれぞれの場面は連続しています。
そのため場面ごとのアライメントは前後の関係を考えて、はじめて理解できます。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
なぜICではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節20°屈曲位から考えていきます。
ICは遊脚期から立脚期に切り替わる瞬間ともいえます。
そのため遊脚期での下肢の振り出し(Tsw)で作った20°屈曲位がそのまま保持されていることになります。
この時、振り出し(股関節の屈曲モーメント)を制御するために大殿筋とハムストリングスが活動します。
特にこの大殿筋の収縮は重要で、屈曲モーメントにより体幹・股関節が前方に崩れていくのを制御する役割があります。
また踵接地の瞬間、腸骨は後傾するため仙結節靭帯と骨間靭帯の張力を高めて仙腸関節の安定に作用するのですが、その際ハムストリングスの収縮がさらにそれを強固にする役割があります。
なのでこの股関節屈曲20°で大殿筋・ハムストリングスが収縮している状態は、衝撃に耐えるために有利であるとともに、アライメントを維持するためにも重要だと言えます。
またこの屈曲20°という肢位は、地面への垂直の力が、振り出しによる下肢を前に滑らせてしまう方向の力より大きくなるため安定すると言われています。
歩幅が小さければ下肢を前に滑らせる力が少なくなるため、安定しますが歩行による推進力も少なくなってしまいます。(高齢者でよくみられます。)
そのため健常者の大きな振り出しでは、この理想的な股関節屈曲と大殿筋・ハムストリングスの収縮による安定が重要となってきます。
【膝関節】
膝関節はこの時期にほぼ完全伸展位をとります。
膝関節も股関節と同様に振り出しから連続し、遊脚期の最後(Tsw)には膝から下が振り子のように振り出されるのでほぼ完全伸展位となります。
膝関節伸展位は、膝関節周囲の靭帯の緊張が高まる「締まりの位置」なので、踵接地の衝撃に耐えることができます。
また、股関節屈曲と膝関節伸展のアライメントでは体重ベクトルが、膝関節軸の前方を通ることになます。これにより膝関節伸展方向のモーメントが発生し安定性の高い状態になります。
この際、この膝関節伸展を維持するために大腿四頭筋の収縮や大殿筋上部線維による腸脛靭帯の緊張が起こり、膝折れを防ぎます。
さらに反張膝を防ぐためにハムストリングスの活動も必要となります。
つまり膝関節のアライメントを制御するために、膝関節前面・後面両方の筋群の活動が必要になり、前面ではより強い活動が必要になると言えます。
【足関節】
足関節はこの時期に中間位をとります。
この「中間位で踵接地する」ということは、足部の安定性に重要な意味を持ちます。
足関節背屈位では、距骨関節面の広い部分が脛骨と腓骨の間にはまり込むため「締まりの位置」となって足関節の可動は制限されます。
さらに中間位では足関節の適合性が最も高くなると言われるため衝撃に耐えるために有利となります。
またこの肢位はICの後に続く、ローディングレスポンス(LR)で重要になります。この時に起こるheelrocker機能のためのポジショニングとして、足関節中間位が適切な位置となるためです。
これらの理由で、足関節を中間位に保ち踵接地するのが理想的ですが、そのためには前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋の活動が必要になります。
【距骨下関節】
また衝撃に耐えるために距骨下関節は外反し、その影響で膝関節は内旋します。
この下腿の内旋は、股関節屈曲位での制御に必要な大殿筋の活動が大腿骨を外旋させるのに対して、距骨下関節は外反し下腿を内旋させるため運動連鎖により起こります。
これにより前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)が交差を強めることになり、膝関節がより安定します。
まとめ
ICでは衝撃に耐えることと、後のheelrocker機能を効率よく働かせるための下肢のポジショニングが重要になります。
股関節屈曲位は仙腸関節と膝関節の安定に関わり大殿筋・ハムストリングスにより制御されます。
膝関節伸展位と下腿内旋位は靭帯による受動的な安定性をもたらします。また大腿四頭筋や大殿筋上部の活動により膝折れを防ぎ、ハムストリングスにより反張膝を防ぎます。
足関節中間位は距腿関節のはまり込みによる安定化と、heelrocker機能の準備につながります。このために前脛骨筋などの足関節伸展筋の活動が重要になります。
これらにより衝撃吸収と下肢のポジショニングが達成されます。
重要なICの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.