ローディングレスポンス(loading response:LR)荷重応答期まとめ【歩行分析】
ローディングレスポンスとは
ローディングレスポンス(以下LR)とは、イニシャルコンタクト(以下IC)の直後から始まり反対側の足部が地面から離れるまでの場面を言います。
わかりやすく言えば、LRとは踵が地面についた瞬間から足底の全面が地面に接地するまでの、衝撃を吸収する時期となります。
また、衝撃吸収や前方推進のメカニズムとして「heelrocker」という機能がありLRでの重要なイベントとなります。
これらの特徴から、この時期は「荷重応答期」と言われます。
ヒールロッカー(heelrocker)機能とは
ヒールロッカーとは回転中心が床と踵の接点にある時をいい、ICからLRで起こります。
荷重受け継ぎの際、前方へ落ちていく身体重量によって生じる勢いは、ヒールロッカーの機能により受け止められます。
その力を利用し、ヒールロッカーの機能は、下肢全体を前方へ移動させます。
この前方移動とは、足関節の中間位付近までのことであり、踵接地から足底接地するまでの動きとなります。
次のアンクルロッカーで足関節の中間位より前方に移動します。
ヒールロッカーでは、床反力の作用線がICとLRの期間、足関節の後方を通過します。
それにより足関節底屈方向のモーメントが発生し、その回転中心を踵骨隆起の丸い表面が担います。
身体はターミナルスイングの終わりで1cmの高さから自由落下し、床へ向かう力の大部分が前方への勢いに変換されます。この機能は衝撃の緩衝にも貢献します。
筋の活動としては、前脛骨筋の遠心性収縮が足の「落下」に対しブレーキをかけます。
この筋収縮により下腿は前方へ引っ張られ、膝関節は約15°屈曲します。この時、膝関節屈曲を制御するために大腿四頭筋も遠心性収縮し、前方に倒れていく下腿に大腿を近づけていきます。(Tittel1985,Inman1981,Perry1992)
これにより下肢全体を前方に移動することが可能となります。
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年)
ローディングレスポンスの役割
ローディングレスポンス(以下LR)では踵接地で衝撃に耐えたあと、「①その衝撃を吸収」し「②スムーズに前方への推進を促す」という2つの役割があります。
この時の下肢のアライメントは、股関節屈曲20°、膝関節屈曲15~20°、足関節底屈5°、距骨下関節外反位です。
踵接地との違いは膝関節屈曲と足関節底屈です。
この時期の膝屈曲は、いわゆるダブルニーアクション(double knee action)の一回目の屈曲です。
またこの足関節底屈はheelrocker機能により起こります。
歩行のそれぞれの場面は連続しています。
そのため場面ごとのアライメントは前後の関係を考えて、はじめて理解できます。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
ダブルニーアクション(二重膝作用)とは
支持脚は膝関節を完全伸展位で踵接地して「立脚相」になり、膝関節を足底接地まで屈曲していき、「立脚中期」の後、体重が支持脚に完全に加わる時期にふたたび伸展し、踵離地と同時に屈曲を始める。
このような膝関節の伸展-屈曲-伸展-屈曲の運動を二重膝作用(double knee action)という。
踵接地の衝撃の軽減と上下の重心移動の振幅減少に役立つ。
(『基礎運動学第6版』著者中村隆一・斎藤宏・長崎浩 医歯薬出版株式会社2009)
なぜLRではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節20°屈曲位から考えていきます。
これはイニシャルコンタクト(以下IC)の肢位の継続です。
ICに引き続き屈曲位を維持するために、大殿筋の収縮が重要になってきます。
またハムストリングスも引き続き収縮し、仙腸関節を安定させます。
またICでは正中にあった重心が、立脚肢に移動してくるため、股関節内転筋・外転筋の収縮も起こります。
またheelrocker機能により、相対的に股関節は伸展していくため、徐々に大殿筋やハムストリングスの収縮は弱まり、そのかわりに大腿四頭筋が収縮してきます。
この大腿四頭筋の収縮は非常に重要で大腿骨を前方へ引き寄せ、骨盤と体幹の勢いで股関節の伸展力を高めます。
【膝関節】
膝関節はこの時期に15~20°屈曲してきます。
この膝関節屈曲は衝撃吸収に最も重要な役割をしています。
そしてこの膝関節屈曲はheelrocker機能と連動して起こります。heelrocker機能により足底が地面に近づく底屈モーメントを前脛骨筋の遠心性収縮で制御します。これにより下腿が前傾していくため膝関節には屈曲のモーメントがかかってきます。
この強力な屈曲モーメントを制御するのが大腿四頭筋の遠心性収縮です。
この制御下での膝関節の15~20°屈曲は結果的に衝撃吸収の要となります。
しかし、ここで問題が一つ生じます。
ICでは完全伸展位(あるいは5°屈曲)で安定していた膝関節が、屈曲位となることで不安定となります。
ここで重要となるのが大殿筋です。大殿筋は股関節屈曲モーメントを制御し、結果的に股関節伸展力を生みます、これが大腿骨遠位端を脛骨に押し付けて膝関節を安定化させます。
またこの大殿筋の収縮は股関節外旋にも作用し、大腿骨を外旋させます。
それに対し距骨下関節は外反するため、下腿は内旋するという運動連鎖が起こります。
これにより前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)が交差を強めることになり、膝関節がより安定します。
【足関節】
足関節はこの時期に5°底屈してきます。
これは踵接地直後に足関節底屈モーメントが発生するため、それを足関節背屈筋群(前脛骨筋、長趾伸筋、長母指伸筋)の遠心性収縮により制御する過程で生じます。
またこの足関節背屈筋群の遠心性収縮は下腿を前傾させます。
これにより膝関節屈曲が生じて、衝撃を吸収することができます。
またこれらのいわゆるheelrocker機能により、衝撃吸収するとともに、前方への推進力も生まれます。
下腿の前傾は最終的に腓腹筋とヒラメ筋により制御され、次の立脚中期のankle rocker機能を働かせる準備をします。
【距骨下関節】
距骨下関節は外反します。
膝関節のところで書いたように、下腿の内旋を生み、膝関節の安定化に関わります。
まとめ
LRではICで生じた衝撃を吸収することと、heel rocker機能によりスムーズに前方への推進を促すことが重要となります。
股関節屈曲位はICからの延長で生じており、前方に崩れるのを防ぐために大殿筋の収縮が必要になってきます。
膝関節屈曲位は衝撃吸収で最も重要となり、heel rocker機能と連動して起こります。
この膝関節屈曲の制御のために大腿四頭筋の収縮が重要になります。
足関節底屈位は前脛骨筋により制御され、同時に下腿前傾が起こります。
これがいわゆるheel rocker機能であり、この下腿前傾により膝関節屈曲が誘発されます。
この一連の動作により衝撃吸収だけではなく、前方への推進を促します。
重要なLRの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.