リハログ

リハログ

はじめまして。yusukeです。柔道整復師/鍼灸師/理学療法士 3つの資格を取得。各種養成校の学生向けに「リハログ」を運営しています。30代一児の父として頑張っています。

ターミナルスタンス(terminal stance:Tst)立脚後期まとめ【歩行分析】

f:id:r154018:20180811161502p:plain

 

ターミナルスタンスとは

ターミナルスタンス(以下Tst)とは、ミッドスタンス(以下Mst)の後に起こり、股関節伸展と共に足関節では踵が浮き上がり、いわゆる「蹴り出し」が起こる時期です。

Mstで身体重心が最も上方に持ち上がった後、Tstでは下降してくる身体重心持ち上げるために踵を浮き上がらせ、つま先立ちになることで蹴り出します。それによりフットクリアランスが保たれ反対側が適切に初期接地(以下IC)することができます。この反対側のICまでの区間をMstと言います。

このつま先立ちになり蹴り出すときに、中足指節関節を軸とします。この中足指節関節を軸とした前方へ推進をforefoot rocker機能と言い、Tstにおいて重要なイベントとなります。

 

Tstは立脚期の後半の場面になるため、「立脚後期」と言われます。

 

フォアフットロッカー(forefoot rocker)機能とは

フォアフットロッカーとは回転中心が中足趾節関節にある時をいい、Tstで起こります。

 

フォアフットロッカーはアンクルロッカーに引き続いて起こります。

 

フォアフットロッカーの機能は、制御された背屈によって、アンクルロッカー終了後も脚の前方への動きを可能にする事です。

 

これにより踵は床から離れることが可能になります。

この際、身体に最も強い駆動力が生じ、下腿三頭筋の活動も最大になります。

 

床反力の作用線が中足骨頭までくると踵が床から持ち上がります。

この際、軸は中足趾節関節となり、中足骨頭の丸い表面が回転中心となります。

 

足関節と中足趾節関節の間にある中足部は、下腿三頭筋により安定したレバーアームになります。

これがなければ踵が床から浮くことが困難です。

また、身体重心が中足趾節関節の回転中心を越えて前にくれば、身体の前方への動きの加速が生じます。

 

筋活動としては腓腹筋とヒラメ筋が最大筋力の約80%の力で、前方へ倒れていく下腿の速度を減速するように働きます。(Rohen1984.Perry1992)

この筋活動はMst時の約3倍となります。

(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年)

 

 

ターミナルスタンスの役割

ターミナルスタンスでは(以下Tst)ではMstで股関節と膝関節が鉛直配列に近づき身体重心が最も上方に持ち上がった後、「①前方へ加速する身体重心にブレーキをかける」「②下降してくる身体重心を上方修正する」「③重心軌道の方向をコントロールする」の3つの役割があります。

 

Tstではankle rockerにより加速した推進力に対して適切にブレーキをかけることと、徐々に下降してくる身体重心を持ち上げるためにforefoot rockerによる蹴り出しが重要になります。またこの蹴り出しは方向転換で重要な機能となります。

ankle rockerは足部の向いた方向にしか回転できないため、forefoot rockerによる蹴り出しで方向転換する必要があります。

高齢者では蹴り出しが消失している場合が多いため、方向転換がスムーズにできません。方向転換時に転倒リスクが高いのはこれが一つの原因です。

 

Tst時の下肢のアライメントは股関節伸展20°、膝関節屈曲5°、足関節背屈10°、距骨下関節外反位(Mstよりさらに減少)です。

 

Mstとの違いは股関節が最大伸展位になることと、蹴り出し(forefoot rocker機能)のため足関節背屈が強まることです。

 

歩行のそれぞれの場面は、実は連続しています。

そのためそれぞれの場面でのアライメントには理由があります。

 

なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。

 

なぜTstではこの肢位をとるのか

【股関節】

まず股関節伸展20°について考えていきます。

Mstで0°中間位だった股関節は、Tstで20°まで伸展されます。

これをtraling limb(トレイリングリム)といい、体幹の重心が足部の作る支持基底面から大きく離れるために股関節の過伸展が起こることを指します。

 

股関節の後方を通る床反力ベクトルは強力な股関節伸展モーメントを生み、それは大腿筋膜張筋によって制御されます。

同時に腸腰筋は引き伸ばされるとともに遠心性収縮して重心の前方移動にブレーキをかけます。

(この遠心性収縮はバネのようにエネルギーを蓄えて、遊脚期になると開放され急激に求心性収縮することで振り出しのエネルギーとなります。)」

また前額面上の安定のために小殿筋、大腿筋膜張筋が活動します。

※簡単に時期ごとの筋活動をまとめると、「IC・LR大殿筋」「Mst→中殿筋」「Tst→大腿筋膜長筋・小殿筋」がポイントとなります。

 

【膝関節】

膝関節はMstに引き続き屈曲5°とほぼ伸展位のままです。

下腿三頭筋の最大収縮によりMstから続く下腿の前傾にブレーキをかけていくことにより、膝関節を安定させます。膝関節周囲では特に筋活動は必要としません。

 

【足関節】

足関節はMstの5°からTstでは10°まで背屈します。

forefoot rocker機能により蹴り出すために、下腿三頭筋が最大に収縮し踵を持ち上げます。

これにより反対側の歩幅を大きくします。

下腿三頭筋はMstでは遠心性収縮によりankle rockerの前方推進を制御し、Tstでは動的安定性を保持する等尺性収縮にスムーズに移行しforefoot rockerを可能とする。

(※最後はPswで残存的な力による求心性収縮が発生する。)

 

【距骨下関節】

距骨下関節ではMstよりさらに外反が減少する。

そのために内反筋群(ヒラメ筋・後脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋)が活動する。

 

まとめ

Tstでは前方へ加速する身体重心にブレーキをかけることと、下降してくる身体重心を上方修正し、推進する方向をコントロールすることが重要となります。

 

股関節20°伸展位は股関節伸展モーメントにより起こり、大腿筋膜張筋により制御されます。前額面上では小殿筋と大腿筋膜張筋が制御します。

膝関節5°屈曲位はMstから引き続きほぼ伸展位を維持します。筋活動は必要ありません。

足関節10°背屈位は蹴り出しによりおこります。この際、下腿三頭筋の最大筋収縮がおこり踵を持ち上げます。

これがいわゆるforefoot rocker機能であり、身体重心の上方修正と、推進方向のコントロールを可能とします。

 

重要なTstの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。

 

【参考文献】

1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.

2)石井慎一郎:動作分析 臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践,メジカルビュー社,2016.