【歩行分析】歩行周期の覚え方。ポイントを絞って簡単にまとめました。
歩行周期は理学療法士であれば必修で、柔道整復師、鍼灸師でもリハビリテーション医学で一部学習すると思います。
しかし、臨床で活用するためには暗記する項目が多く、なかなか理解が難しい分野だと思います。
そこで今回は理解の助けになることを祈って要点をまとめてみました。
苦手な歩行分析のポイントをこの機会に整理してみましょう。
- 歩行周期とは
- 歩行時に必要な可動域
- 立脚相は特に重要
- イニシャルコンタクト(IC)初期接地
- ローディングレスポンス(LR)荷重応答期
- ミッドスタンス(Mst)立脚中期
- ターミナルスタンス(Tst)立脚後期
- まとめ
歩行周期とは
歩行周期とは立脚相(支えてる時期)と遊脚相(振り出している時期)からなり、片側の脚が接地してから立脚と遊脚を経てもう一度接地するまでの区間をいいます。
従来の名称とランチョ・ロス・アミーゴ式の二つの表現方法があり、現在ではランチョ・ロス・アミーゴ式が一般的です。
(ランチョ・ロス・アミーゴ式とは臨床歩行分析のメッカと言われるロサンゼルスのランチョ・ロス・アミーゴ国立リハビリテーションセンターで考えられた名称です。)
また、立脚相を5つの場面、遊脚相を3つの場面に分けて表現します。
これらの場面はそれぞれ重要な役割を持ち、これらの場面を経て歩行が達成されることを「正常歩行」といいます。
歩行分析では基本的に、この正常歩行でそれぞれの場面が役割を果たせているかを基準として評価していきます。
役割を果たせず、異なった形態で歩行していることを逸脱歩行といい、どの場面で逸脱しているのか正常歩行と比較することで判断します。
そのため、初学者はまず正常歩行について熟知することが、歩行分析する力をつける第一歩となります。
以下に立脚相、遊脚相それぞれの場面の名称をまとめます。
従来の表現 |
ランチョ・ロス・アミーゴ式 |
(立脚相) |
|
踵接地 |
初期接地:IC |
足底接地 |
荷重応答期:LR |
立脚中期 |
立脚中期:Mst |
踵離地 |
立脚終着:Tst |
足指離地 |
前遊脚期:Psw |
(遊脚相) |
|
加速期 |
遊脚初期:Isw |
遊脚中期 |
遊脚中期:Msw |
減速期 |
遊脚後期:Tsw |
歩行時に必要な可動域
ではそれぞれの場面では、どんな姿勢になるのでしょうか?
簡単にですが、場面ごとの関節の角度を整理してみました。
なかなか角度だけを見て想像できませんが、それぞれの場面での関節角度は意味があり後々おおまかに覚えておく必要があります。
また、これらの関節可動域を満たさない場合、各場面の正常な肢位がとれない原因の一つとなります。
|
股関節 |
膝関節 |
距腿関節 |
距骨下関節 |
中足趾節関節 |
IC |
屈曲20° |
屈曲5° |
中間位 |
中間位(軽度内反) |
中間位 |
LR |
屈曲20° |
屈曲15° |
底屈5° |
外反5° |
中間位 |
MSt |
中間位 |
屈曲5° |
背屈5° |
外反が減少 |
中間位 |
TSt |
伸展20° |
屈曲5° |
背屈10° |
外反2°に減少 |
伸展30° |
伸展10° |
屈曲40° |
底屈15° |
中間位 |
伸展60° |
|
ISw |
屈曲15° |
屈曲60° |
底屈5° |
中間位 |
中間位 |
MSw |
屈曲25° |
屈曲25° |
中間位 |
中間位 |
中間位 |
TSw |
屈曲20° |
屈曲0~5° |
中間位 |
中間位(軽度内反) |
伸展0~25° |
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年p40~46)
立脚相は特に重要
急にたくさんの単語がでてきて、覚えられるかな?と思ってしまうのですが、この中にも要点があります。
ポイントは立脚相から理解を深めることです。
なぜなら片方の脚が立脚相になっている時、じつは反対の脚は遊脚相になります。
つまり、立脚相で支えられていないと、反対側の遊脚相が作れません。そのため多くはまず立脚相を評価していくことになります。
なので立脚相を集中的にまずは理解していきましょう。
今回はその中でも特に重要なIC~Tstの4つの場面に集中してまとめていきます。
また、歩行周期はそれぞれの場面が独立しているわけではなく、当然連続して起こっています。
なので暗記することが膨大に感じますが、場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解すれば覚えやすくなります。
以下にそれぞれの役割と、肢位のポイントをまとめていくので参考にして下さい。
イニシャルコンタクト(IC)初期接地
イニシャルコンタクト(以下IC)とは、歩行の最初に踵が地面に接する場面を言います。
遊脚相(振り出し)から地面に踵がついた瞬間に立脚相に切り替わりその瞬間がICです。
ICでは接地の衝撃に耐えることと、この後のLRで起こるheelrockerを効率よく働かせるための下肢のポジショニング作りが重要になります。
このときの下肢のアライメントは、「股関節屈曲20°」、「膝関節屈曲0~5°(ほぼ完全伸展位)」、「足関節中間位」、「距骨下関節外反位」です。
「股関節20°屈曲位」は遊脚期の振り出しの終了の位置が引き継がれた角度であり、仙腸関節と膝関節の安定に有利な肢位です。この肢位は大殿筋・ハムストリングスにより制御されます。
「膝関節伸展位」と踵骨外反の影響で起こる下腿内旋位の運動連鎖は靭帯による受動的な膝関節の安定性をもたらします。また大腿四頭筋や大殿筋上部の活動により膝折れを防ぎ、ハムストリングスにより反張膝を防ぎます。
「足関節中間位」は距腿関節のはまり込みによる安定化と、heelrocker機能の準備につながります。このために前脛骨筋などの足関節伸展筋の活動が重要になります。
これらにより衝撃吸収と下肢のポジショニングが達成されます。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ローディングレスポンス(LR)荷重応答期
ローディングレスポンス(以下LR)とは、イニシャルコンタクト(IC)の直後から始まり足底の全面が地面に接地するまでの時期となります。
LRではICで生じた衝撃を吸収することと、heel rocker機能によりスムーズに前方への推進を促すことが重要となります。
この時の下肢のアライメントは、「股関節屈曲20°」、「膝関節屈曲15~20°」、「足関節底屈5°」、「距骨下関節外反位」です。
「股関節20°屈曲位」はICからの延長で生じており、前方に崩れるのを防ぐために大殿筋の収縮が必要になってきます。
「膝関節15~20°屈曲位」は衝撃吸収で最も重要となり、heel rocker機能と連動して起こります。
この膝関節屈曲の制御のために大腿四頭筋の収縮が重要になります。
「足関節5°底屈位」は前脛骨筋により制御され、同時に下腿前傾が起こります。
これがいわゆるheel rocker機能であり、この下腿前傾により膝関節屈曲が誘発されます。
この一連の動作により衝撃吸収だけではなく、前方への推進を促します。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ミッドスタンス(Mst)立脚中期
ミッドスタンス(以下Mst)とは、ローディングレスポンス(LR)の後に起こり、膝関節・股関節が鉛直配列に近づき身体重心が最も上方に持ち上がる時期です。
Mstでは下腿の前傾を制御し安定した立脚を維持することと、身体重心を上方に持ち上げることが重要となります。
この時の下肢のアライメントは、「股関節屈曲0°」、「膝関節屈曲5°」、「足関節背屈5°」、「距骨下関節外反位(LRより減少)」です。
「股関節中間位」は反対側の振り出しと股関節伸展モーメントにより受動的に起こります。
前額面では外転筋群と大内転筋により骨盤の外側移動の制動と、膝関節の安定がなされ荷重が乗ってくる下肢を制御し安定した立脚を可能にします。
「膝関節5°屈曲位」はほぼ伸展位であり、反対側の振り出しと膝関節伸展モーメントにより受動的に起こります。ただし前半では大腿四頭筋による膝関節安定化が必要になります。
「足関節5°背屈位」はLRでの5°底屈位から下腿が前傾した結果であり、下腿三頭筋の制御が必須になります。これにより下腿・大腿の受動的伸展を制御し安定した立脚が可能となります。
これがいわゆるankle rocker機能であり、前方への推進力を適切にコントロールするメカニズムです。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ターミナルスタンス(Tst)立脚後期
ターミナルスタンス(以下Tst)とは、ミッドスタンス(Mst)の後に起こり、股関節伸展と共に足関節では踵が浮き上がり、いわゆる「蹴り出し」が起こる時期です。
Mstで身体重心が最も上方に持ち上がった後、Tstでは下降してくる身体重心持ち上げるために踵を浮き上がらせ、つま先立ちになることで蹴り出します。
それによりフットクリアランスが保たれ反対側が適切に初期接地(IC)することができます。
Tstでは前方へ加速する身体重心にブレーキをかけることと、下降してくる身体重心を上方修正し、推進する方向をコントロールすることが重要となります。
この時の下肢のアライメントは「股関節伸展20°」、「膝関節屈曲5°」、「足関節背屈10°」、「距骨下関節外反位(Mstよりさらに減少)」です。
「股関節20°伸展位」は股関節伸展モーメントにより受動的に起こり、矢状面状上では大腿筋膜張筋により制御されます。前額面上では小殿筋と大腿筋膜張筋が制御します。
「膝関節5°屈曲位」はMstから引き続きほぼ伸展位を維持します。筋活動は必要ありません。
「足関節10°背屈位」は蹴り出しにより起こります。この際、下腿三頭筋の最大筋収縮がおこり踵を持ち上げます。
これがいわゆるforefoot rockerであり、身体重心の上方修正と、推進方向のコントロールを可能とします。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
まとめ
今回は歩行周期についてポイントをまとめてみました。
歩行周期は立脚相から遊脚相までの一連の流れで、一側が立脚相のとき反対側は遊脚相となります。
つまり、片脚が支えている時反対側は振り出されているわけです。
重力がある以上、どうしても支える足が安定した歩行のために重要になります。
たくさん暗記する項目があり最初は混乱しますが、導入としてまずは立脚相の要点を覚えることがおすすめです。
その際、前後のつながりを意識しながら覚えていくと、なぜその姿勢になるのか理解しやすいためおすすめです。
おそらくこの記事を読んでくれた方は何かしら歩行についての書籍をお持ちだと思いますが、以下の書籍では簡潔に詳細にまとめてくれていますので紹介しておきます。
しっかり理解したい方はぜひ活用してください。
【参考文献】
柔道整復師、理学療法士を経験して思うこと
今回は柔道整復師と理学療法士の2つの資格で仕事をしてみて感じたことをもとに、両資格の特徴を書いてみます。
この2つの資格は一般的に似ていると言われていますが、全く専門が違います。
業務はたしかに一部重なりますが、目的が違うのです。
今回、簡単に両資格の違いを書いてみます。
柔道整復師、理学療法士とは
ざっくりまとめると、柔道整復師は主に整骨院で働き、理学療法士は主に病院で働く仕事です。
しかし、現在は職域が広がり両資格とも福祉の現場をはじめ様々な場所で活躍しています。
簡単に違いを書くと、柔道整復師は痛みや動きにくいなどの「症状に対する治療」をすることが多いのに対して、理学療法士は日常で困る動作についていわゆる「リハビリ」をします。
理学療法士も「症状」には介入しますが、それは手段であり目的ではありません。
これは医療の現場において、症状には医師が主として対応しているからという側面があります。というのも病院ではより重度の疾患が多く、手術や投薬などの治療と並行してリハビリを行うからです。
ただ、理学療法士も外来や訪問など場面が変われば柔道整復師に近い業務もこなします。
このような場面では、患者さんのリピートを意識する必要があり、満足度について考えなければいけません。つまり症状の緩和や場合によっては慰安の要素(会話も含めて)に向き合わなければいけません。
またお客様としてサービスの観点も必要になってきます。
なので柔道整復師と理学療法士は場面によって業務が重なるという事実があります。
しかし、お互いに専門が違うため関わる上で目的は全く違うものとなります。
柔道整復師の治療と理学療法士のリハビリとは似て非なるものなのですが、それはまた別の記事で紹介します。
今回は、それぞれの資格の強みについて書いていきます。
理学療法士の強み
理学療法士は福祉の現場でも活躍しますが、養成校では医療での関わりを主として勉強します。
これが柔道整復師との違いとしてまず第1に挙げられる点だと思います。
理学療法士は、医療現場で連携して仕事をするため、常に医療従事者間での共通言語を求められます。
柔道整復師では、そのような教育は少なく、また現場でもあまり意識されていないのが現実です。
共通言語を用いることで、様々な書類を作成することができ、他職種との連携においてとても強みになります。
また根拠に基づいて治療をすることが求められるため、ある程度の能力の平均化が図られていると言えます。
これは施術者全体の質の向上につながっており、安心して施術を受けやすいと言えるでしょう。
理学療法士は医療現場でのリハビリをルーツとした資格なので良くも悪くも安定しています。
柔道整復師の強み
柔道整復師では、開業を目指して入学する人が多く、個人の行動力の高さに強みがあります。
先程書いたように、他職種と連携することが苦手である反面、個人で自営することを目的とするためバランスよく治療以外のマネジメントの視点を持っています。
それ故に、道をそれてしまう施術者が増えてしまい、以前より施術者としては質が下がってしまったことが残念です。
しかし、医療ではなかなか介入しきれないところで活躍することができる点がこの資格の強みです。
しっかり勉強している施術者であれば患者さんが本当に求めている、丁寧な関わりができます。
ある意味、医療的介入のような目的にしばられない点が強みだと思います。
より身近な立場で細やかなサポートができる反面、医療のように安定した内容が担保されているとは言えず、施術者ごとのレベルがばらばらという点が特徴です。
安心して施術を受けられるのは?
どちらの資格も、個人差はどうしてもあり、質にばらつきがあるのは事実です。
レベルの高い施術者がいれば、残念ですが意識の低い施術者も存在します。
しかし、国家試験を通過しているという点で一定の関門を超えてきています。
この意味ではどちらも一定の質が保たれています。
この点を踏まえて、あえてどちらかというと理学療法士となるでしょう。
その理由として、理学療法士の方が医学的な知識のレベルは高い点が挙げられます。そもそも、学ぶ単位数が、理学療法と柔道整復師では違うのでこれは仕方がありません。
理学療法士は4年がベースのカリキュラムなのに対し、柔道整復師は3年ベースなのです。
また、理学療法士は実習という何ヶ月もの長期の実地研修がある点も大きいです。
また理学療法士はクラスの半分近くは落第することもザラで、国家試験にたどり着くまでにかなりふるいにかけられます。これは柔道整復師の養成校では考えられません。
以上の点で、理学療法士の方が質としては安定していると言えるでしょう。
しかし、両資格とも卒業してからが本当の勉強です。
そこから努力した人としない人では差が生まれるため、個人のレベルによって当たり外れがどうしてもあると思います。
まとめ
柔道整復師と理学療法士は患者さんとの関わりが深くなる職種です。
そのため、患者さんとしては信頼できる施術者に治療してもらいたいと思うものです。
しかし、両資格とも一定のレベルは担保されているものの個人の資質が大きいと言わざるを得ません。
今回はその上で、両資格の強みや背景をまとめてみました。
まだまだ認知度が高くない両資格を知るきっかけになれば幸いです。
【鍼灸師】卒業後どうやって技術を磨く?東洋医学の勉強が難しい。一年目の不安について。
鍼灸の学校を卒業しても、そのままでは臨床で通用しないのが現実です。
学校で修得できるのは、安全に鍼灸を行うというところまでで精一杯です。また座学も基本的な医学や東洋医学の知識を暗記するだけで終わってしまいます。
それでも3年間いっぱい使ってなんとか終わります。
つまり、臨床に出てもまだ一人で患者さんに対応できる能力はありません。
ここからどうやって技術や知識をつけていいのか多くの人が迷います。
この悩みは卒業前や、一年目で特に多いのではないでしょうか。
一年目にやるべきこと
いざ患者さんに施術するとなると、まず疾患や症状に対する配穴で悩みます。
たしかに配穴はとても大事ですが、実はもっと難しいのはここからです。
その穴(ツボ)にどうやって打つのかが重要です。
鍼灸は経験医学であり、エビデンスのもとに一定の効果を出すことは困難です。
つまり、様々な穴(ツボ)に打ってみて、効果がでなければ、またその打ち方を変えて、どうやったら効果が出るか試行錯誤する必要があります。
配穴が悪いのか、打ち方が悪いのか経験が浅い内はよく悩みます。
それぞれの穴には適した打ち方があり、穴をひとつ使いこなすには、打つ経験が必ず必要になります。
打って効いた経験を積み重ねて、技術が出来上がっていきます。
なので一年目は、様々な患者さんに打つ経験をするということが、1番重要かもしれません。
配穴がわからない
とはいえ配穴ももちろん重要です。
様々な症状に対応した最適の穴が選べてないと効果がでにくいことも事実です。
これには東洋医学の知識が重要になってきます。しかし、東洋医学の考えというのはどうしても難解で、最初はなかなか習得するのは難しく、卒後の知識では到底臨床では通用しません。
ですが焦って勉強しても一朝一夕で理解するのは難しいでしょう。
しかし、焦ることはありません。
穴レベルではなく、経脈のレベルで把握できれば、その中のいずれかの穴であればある程度効果が期待できます。
なので、まず打つ技術を磨くことが重要だと思います。
東洋医学の全体像がわからず、焦りますが、まずいろいろな穴を使ってみて、自分の中で試行錯誤することが後々の経験になります。
教えてもらうことも大事ですが、自分で導き出した答えには価値があります。
師匠は必要か
ここまで自分で経験して技術を磨く方法を書いてきました。
しかし、師匠がいればメリットがあることも事実です。
師匠がいれば、臨床を見学する機会や、悩んでいる症例を相談する機会が生まれます。
このような機会に恵まれれば、配穴を学べます。
東洋医学的な考察ができなくても、症状ごとに師匠がどのような配穴をしているか見ることで、シンプルに見よう見まねで臨床に入れます。
また、それにより新人のうちは自信を持って臨床にあたることができます。
また、効果が出た時、出ない時、様々な場面でどのように説明しているのか学べます。
そして、最もメリットなのはどのように治っていくのか、症状ごとの予後を学べることです。
鍼灸は慢性疾患を主に対象としているため、必ずしも治ることを目的として患者さんが来ているとは限りません。
その際、何かしら癒しを求めていたり、治ること以外の目的をもって来院して下さることも少なくありません。
師匠がいればこういった様々な経験を、近道で学ぶことができます。
しかし、昔のように余裕がある時代ではありませんから、無償で親切になんでも教えてくれる師匠はなかなか見つかりません。
そこで今回お伝えしたいことは、必ずしも師匠がいなくても成長できるということです。
試行錯誤して、自分が自信を持って打てる穴を増やしていき、経験を積むことで必ず前進します。
配穴については、症状ごとに書いてある本もたくさんでています。
そういった教科書を最初は使い、後ほど東洋医学的な思考を身につけ、自分の考えで穴を選べるようになっていけばいいのではないでしょうか。
目標を決める
鍼灸師になりたては、ただ漠然と技術を学びたいと思いがちです。
しかし、この一年目の時期から最終目標を決め、逆算して必要なことを学ぶことが大事です。
例えば独立開業して、その後の展開を考えている場合、技術とは単に鍼灸の技術だけでは足りなくなります。
どのように鍼灸を売り込むのか、集客のノウハウなど鍼灸院のマネジメントを勉強する必要がでてます。
これらを総合的に学べる、あるいは自身で学ぶ時間がとれる環境を探さなくてはなりません。
目標につながることができているか、それだけが一年目の漠然とした不安を解消する唯一の方法です。
目標が曖昧なほど、不安は増すと言えるでしょう。
まとめ
今回は卒業後の不安への対策について考えてみました。
要点は
①鍼灸の技術については自分でも学んでいける。
②目標を明確にすれば不安は減る。
③目標に近づくことができる環境を選ぶこと
の3つでした。
経験をもとにした個人的な意見ですが、悩んでいる方のお役に立てれば幸いです。
ターミナルスタンス(terminal stance:Tst)立脚後期まとめ【歩行分析】
ターミナルスタンスとは
ターミナルスタンス(以下Tst)とは、ミッドスタンス(以下Mst)の後に起こり、股関節伸展と共に足関節では踵が浮き上がり、いわゆる「蹴り出し」が起こる時期です。
Mstで身体重心が最も上方に持ち上がった後、Tstでは下降してくる身体重心持ち上げるために踵を浮き上がらせ、つま先立ちになることで蹴り出します。それによりフットクリアランスが保たれ反対側が適切に初期接地(以下IC)することができます。この反対側のICまでの区間をMstと言います。
このつま先立ちになり蹴り出すときに、中足指節関節を軸とします。この中足指節関節を軸とした前方へ推進をforefoot rocker機能と言い、Tstにおいて重要なイベントとなります。
Tstは立脚期の後半の場面になるため、「立脚後期」と言われます。
フォアフットロッカー(forefoot rocker)機能とは
フォアフットロッカーとは回転中心が中足趾節関節にある時をいい、Tstで起こります。
フォアフットロッカーはアンクルロッカーに引き続いて起こります。
フォアフットロッカーの機能は、制御された背屈によって、アンクルロッカー終了後も脚の前方への動きを可能にする事です。
これにより踵は床から離れることが可能になります。
この際、身体に最も強い駆動力が生じ、下腿三頭筋の活動も最大になります。
床反力の作用線が中足骨頭までくると踵が床から持ち上がります。
この際、軸は中足趾節関節となり、中足骨頭の丸い表面が回転中心となります。
足関節と中足趾節関節の間にある中足部は、下腿三頭筋により安定したレバーアームになります。
これがなければ踵が床から浮くことが困難です。
また、身体重心が中足趾節関節の回転中心を越えて前にくれば、身体の前方への動きの加速が生じます。
筋活動としては腓腹筋とヒラメ筋が最大筋力の約80%の力で、前方へ倒れていく下腿の速度を減速するように働きます。(Rohen1984.Perry1992)
この筋活動はMst時の約3倍となります。
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年)
ターミナルスタンスの役割
ターミナルスタンスでは(以下Tst)ではMstで股関節と膝関節が鉛直配列に近づき身体重心が最も上方に持ち上がった後、「①前方へ加速する身体重心にブレーキをかける」「②下降してくる身体重心を上方修正する」「③重心軌道の方向をコントロールする」の3つの役割があります。
Tstではankle rockerにより加速した推進力に対して適切にブレーキをかけることと、徐々に下降してくる身体重心を持ち上げるためにforefoot rockerによる蹴り出しが重要になります。またこの蹴り出しは方向転換で重要な機能となります。
ankle rockerは足部の向いた方向にしか回転できないため、forefoot rockerによる蹴り出しで方向転換する必要があります。
高齢者では蹴り出しが消失している場合が多いため、方向転換がスムーズにできません。方向転換時に転倒リスクが高いのはこれが一つの原因です。
Tst時の下肢のアライメントは股関節伸展20°、膝関節屈曲5°、足関節背屈10°、距骨下関節外反位(Mstよりさらに減少)です。
Mstとの違いは股関節が最大伸展位になることと、蹴り出し(forefoot rocker機能)のため足関節背屈が強まることです。
歩行のそれぞれの場面は、実は連続しています。
そのためそれぞれの場面でのアライメントには理由があります。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
なぜTstではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節伸展20°について考えていきます。
Mstで0°中間位だった股関節は、Tstで20°まで伸展されます。
これをtraling limb(トレイリングリム)といい、体幹の重心が足部の作る支持基底面から大きく離れるために股関節の過伸展が起こることを指します。
股関節の後方を通る床反力ベクトルは強力な股関節伸展モーメントを生み、それは大腿筋膜張筋によって制御されます。
同時に腸腰筋は引き伸ばされるとともに遠心性収縮して重心の前方移動にブレーキをかけます。
(この遠心性収縮はバネのようにエネルギーを蓄えて、遊脚期になると開放され急激に求心性収縮することで振り出しのエネルギーとなります。)」
また前額面上の安定のために小殿筋、大腿筋膜張筋が活動します。
※簡単に時期ごとの筋活動をまとめると、「IC・LR大殿筋」「Mst→中殿筋」「Tst→大腿筋膜長筋・小殿筋」がポイントとなります。
【膝関節】
膝関節はMstに引き続き屈曲5°とほぼ伸展位のままです。
下腿三頭筋の最大収縮によりMstから続く下腿の前傾にブレーキをかけていくことにより、膝関節を安定させます。膝関節周囲では特に筋活動は必要としません。
【足関節】
足関節はMstの5°からTstでは10°まで背屈します。
forefoot rocker機能により蹴り出すために、下腿三頭筋が最大に収縮し踵を持ち上げます。
これにより反対側の歩幅を大きくします。
下腿三頭筋はMstでは遠心性収縮によりankle rockerの前方推進を制御し、Tstでは動的安定性を保持する等尺性収縮にスムーズに移行しforefoot rockerを可能とする。
(※最後はPswで残存的な力による求心性収縮が発生する。)
【距骨下関節】
距骨下関節ではMstよりさらに外反が減少する。
そのために内反筋群(ヒラメ筋・後脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋)が活動する。
まとめ
Tstでは前方へ加速する身体重心にブレーキをかけることと、下降してくる身体重心を上方修正し、推進する方向をコントロールすることが重要となります。
股関節20°伸展位は股関節伸展モーメントにより起こり、大腿筋膜張筋により制御されます。前額面上では小殿筋と大腿筋膜張筋が制御します。
膝関節5°屈曲位はMstから引き続きほぼ伸展位を維持します。筋活動は必要ありません。
足関節10°背屈位は蹴り出しによりおこります。この際、下腿三頭筋の最大筋収縮がおこり踵を持ち上げます。
これがいわゆるforefoot rocker機能であり、身体重心の上方修正と、推進方向のコントロールを可能とします。
重要なTstの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.
ミッドスタンス(mid stance:Mst)立脚中期まとめ【歩行分析】
ミッドスタンスとは
ミッドスタンス(以下Mst)とは、ローディングレスポンス(以下LR)の後に起こり、膝関節・股関節が鉛直配列に近づき身体重心が最も上方に持ち上がる時期です。
LRで足底前面が地面に接し、下腿が前方に傾いてくるのを制御することが重要な時期となり、傾きが最大になり踵が浮くまでを言います。
この足関節の制御をankle rocker機能と言い、Mstにおいて重要なイベントとなります。
Mstは立脚期の前半と後半の中間の場面になるため、「立脚中期」と言われます。
アンクルロッカー(ankle rocker)機能とは
アンクルロッカーとは回転中心が足関節にある時をいい、Mstで起こります。
具体的にはヒールロッカーの後に起こる下腿三頭筋によって制御される足関節背屈のことです。
床反力の作用線はこの相で足関節の前方へ移動していき、それにより足関節背屈方向のモーメントが発生し増加していきます。
この際、軸は足関節で、足底が床に接した時点から足関節は回転中心となります。(Mstで足全体は床に固定されます。)
筋の活動としてはヒラメ筋が下腿の前方への動きを安定させ、腓腹筋とともに遠心性収縮によって足の制御された背屈を生じさせます。
下腿三頭筋の機能はMstでの立脚安定に欠かせません。
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年)
ミッドスタンスの役割
ミッドスタンスでは(以下Mst)ではLRで足底前面が地面に接地したあと、「①下腿の前傾を制御」し「②安定した立脚を維持」しつつ「③身体重心を上方に持ち上げる」という3つの役割があります。
この役割を達成することにより、下腿の前傾(ankle rocker機能)の前半では前方への推進力が加速していき、後半ではその加速を制御しブレーキをかけていくことで、スムーズな前方への推進が可能となります。
Mst時の下肢のアライメントは、股関節屈曲0°、膝関節屈曲5°、足関節背屈5°、距骨下関節外反位(LRより減少)です。
LRとの違いは膝関節・股関節が伸展位になっていくことと、下腿が前傾していく(ankle rocker機能)ため足関節背屈位になることです。
IC・LRでの股関節屈曲20°は、Mstで伸展され0°となります。またLRで衝撃吸収のために屈曲した膝関節はほぼ伸展位(屈曲5°)となります。
歩行のそれぞれの場面は、実は連続しています。
そのためそれぞれの場面でのアライメントには理由があります。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
なぜMstではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節0°中間位について考えていきます。
IC・LRで20°屈曲位で維持されていたのが、この時期に伸展され0°中間位となります。
同時に股関節と膝関節はほぼ鉛直に配列され、身体重心が上方に持ち上がります。
このとき股関節周囲の筋活動は必要なく、反対側の振り出しの勢いと股関節の床反力ベクトルが股関節の後方を通ることによる伸展モーメントにより受動的に伸展します。
さらに矢状面では中間位ですが、前額面では骨盤の4°の側方傾斜が起こります。すなわち股関節が4°内転します。
これを制御するのは、外転筋群であり、この外転筋力が足りないとトレンデレンブルグ徴候が起こります。
また、外転筋群と同様に重要なのが大内転筋です。
この大内転筋は骨盤を膝関節上に配列する作用があり、殿筋群により骨盤の側方安定化が図られている時に、膝関節の位置を制御します。
このように股関節では矢状面と前額面の両方で重要な働きがあります。Mstでは矢状面では受動的な伸展が起こり身体重心を上方に持ち上げつつ、前額面では荷重が乗ってくるために外側に動揺する骨盤を制御する必要があります。
【膝関節】
膝関節はこの時期に屈曲5°とほぼ伸展位になります。
LRで屈曲して衝撃吸収に働いた膝関節は、股関節と同様に反対側の振り出しの勢いと股関節の床反力ベクトルが膝関節の前方を通ることによる伸展モーメントにより受動的に伸展します。
ただしMstの前半では大腿四頭筋により膝関節を安定させる必要があり、床反力ベクトルが膝関節の前方を通った時点で大腿四頭筋の活動は停止します。
【足関節】
足関節はこの時期に5°背屈位となります。
これはLRで足底全面が地面に接地した後、下腿がさらに前傾してくるためです。
そのためLRでの5°底屈は、Mstで5°背屈となります。これをankle rockerといいます。
これにより前方への勢いは維持されます。
ただし、この前傾が行き過ぎないように制御も必要となります。
そこで重要になるのが下腿三頭筋の遠心性収縮です。この制御により下腿とその上の大腿の前方加速は制御され安定した、膝関節伸展が可能となります。
【距骨下関節】
距骨下関節はこの時期に外反を減少させます。
LRで外反位となり下腿を内旋させて膝関節を安定させていましたが、身体重心の外側への移動と、下腿三頭筋の強い収縮で内反方向のモーメントが発生し外反を減少させます
まとめ
Mstでは下腿の前傾を制御し安定した立脚を維持することと、身体重心を上方に持ち上げることが重要となります。
股関節中間位は反対側の振り出しと股関節伸展モーメントにより受動的に起こります。
前額面では外転筋群と大内転筋により骨盤の外側移動の制動と、膝関節の安定がなされ荷重が乗ってくる下肢を制御し安定した立脚を可能にします。
膝関節5°屈曲位はほぼ伸展位であり、反対側の振り出しと膝関節伸展モーメントにより受動的に起こります。ただし前半では大腿四頭筋による膝関節安定化が必要になります。
足関節5°背屈位はLRでの5°底屈位から下腿が前傾した結果であり、下腿三頭筋の制御が必須になります。これにより下腿・大腿の受動的伸展を制御し安定した立脚が可能となります。これがいわゆるankle rocker機能であり、前方への推進力を適切にコントロールするメカニズムです。
重要なMstの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.
ローディングレスポンス(loading response:LR)荷重応答期まとめ【歩行分析】
ローディングレスポンスとは
ローディングレスポンス(以下LR)とは、イニシャルコンタクト(以下IC)の直後から始まり反対側の足部が地面から離れるまでの場面を言います。
わかりやすく言えば、LRとは踵が地面についた瞬間から足底の全面が地面に接地するまでの、衝撃を吸収する時期となります。
また、衝撃吸収や前方推進のメカニズムとして「heelrocker」という機能がありLRでの重要なイベントとなります。
これらの特徴から、この時期は「荷重応答期」と言われます。
ヒールロッカー(heelrocker)機能とは
ヒールロッカーとは回転中心が床と踵の接点にある時をいい、ICからLRで起こります。
荷重受け継ぎの際、前方へ落ちていく身体重量によって生じる勢いは、ヒールロッカーの機能により受け止められます。
その力を利用し、ヒールロッカーの機能は、下肢全体を前方へ移動させます。
この前方移動とは、足関節の中間位付近までのことであり、踵接地から足底接地するまでの動きとなります。
次のアンクルロッカーで足関節の中間位より前方に移動します。
ヒールロッカーでは、床反力の作用線がICとLRの期間、足関節の後方を通過します。
それにより足関節底屈方向のモーメントが発生し、その回転中心を踵骨隆起の丸い表面が担います。
身体はターミナルスイングの終わりで1cmの高さから自由落下し、床へ向かう力の大部分が前方への勢いに変換されます。この機能は衝撃の緩衝にも貢献します。
筋の活動としては、前脛骨筋の遠心性収縮が足の「落下」に対しブレーキをかけます。
この筋収縮により下腿は前方へ引っ張られ、膝関節は約15°屈曲します。この時、膝関節屈曲を制御するために大腿四頭筋も遠心性収縮し、前方に倒れていく下腿に大腿を近づけていきます。(Tittel1985,Inman1981,Perry1992)
これにより下肢全体を前方に移動することが可能となります。
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年)
ローディングレスポンスの役割
ローディングレスポンス(以下LR)では踵接地で衝撃に耐えたあと、「①その衝撃を吸収」し「②スムーズに前方への推進を促す」という2つの役割があります。
この時の下肢のアライメントは、股関節屈曲20°、膝関節屈曲15~20°、足関節底屈5°、距骨下関節外反位です。
踵接地との違いは膝関節屈曲と足関節底屈です。
この時期の膝屈曲は、いわゆるダブルニーアクション(double knee action)の一回目の屈曲です。
またこの足関節底屈はheelrocker機能により起こります。
歩行のそれぞれの場面は連続しています。
そのため場面ごとのアライメントは前後の関係を考えて、はじめて理解できます。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
ダブルニーアクション(二重膝作用)とは
支持脚は膝関節を完全伸展位で踵接地して「立脚相」になり、膝関節を足底接地まで屈曲していき、「立脚中期」の後、体重が支持脚に完全に加わる時期にふたたび伸展し、踵離地と同時に屈曲を始める。
このような膝関節の伸展-屈曲-伸展-屈曲の運動を二重膝作用(double knee action)という。
踵接地の衝撃の軽減と上下の重心移動の振幅減少に役立つ。
(『基礎運動学第6版』著者中村隆一・斎藤宏・長崎浩 医歯薬出版株式会社2009)
なぜLRではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節20°屈曲位から考えていきます。
これはイニシャルコンタクト(以下IC)の肢位の継続です。
ICに引き続き屈曲位を維持するために、大殿筋の収縮が重要になってきます。
またハムストリングスも引き続き収縮し、仙腸関節を安定させます。
またICでは正中にあった重心が、立脚肢に移動してくるため、股関節内転筋・外転筋の収縮も起こります。
またheelrocker機能により、相対的に股関節は伸展していくため、徐々に大殿筋やハムストリングスの収縮は弱まり、そのかわりに大腿四頭筋が収縮してきます。
この大腿四頭筋の収縮は非常に重要で大腿骨を前方へ引き寄せ、骨盤と体幹の勢いで股関節の伸展力を高めます。
【膝関節】
膝関節はこの時期に15~20°屈曲してきます。
この膝関節屈曲は衝撃吸収に最も重要な役割をしています。
そしてこの膝関節屈曲はheelrocker機能と連動して起こります。heelrocker機能により足底が地面に近づく底屈モーメントを前脛骨筋の遠心性収縮で制御します。これにより下腿が前傾していくため膝関節には屈曲のモーメントがかかってきます。
この強力な屈曲モーメントを制御するのが大腿四頭筋の遠心性収縮です。
この制御下での膝関節の15~20°屈曲は結果的に衝撃吸収の要となります。
しかし、ここで問題が一つ生じます。
ICでは完全伸展位(あるいは5°屈曲)で安定していた膝関節が、屈曲位となることで不安定となります。
ここで重要となるのが大殿筋です。大殿筋は股関節屈曲モーメントを制御し、結果的に股関節伸展力を生みます、これが大腿骨遠位端を脛骨に押し付けて膝関節を安定化させます。
またこの大殿筋の収縮は股関節外旋にも作用し、大腿骨を外旋させます。
それに対し距骨下関節は外反するため、下腿は内旋するという運動連鎖が起こります。
これにより前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)が交差を強めることになり、膝関節がより安定します。
【足関節】
足関節はこの時期に5°底屈してきます。
これは踵接地直後に足関節底屈モーメントが発生するため、それを足関節背屈筋群(前脛骨筋、長趾伸筋、長母指伸筋)の遠心性収縮により制御する過程で生じます。
またこの足関節背屈筋群の遠心性収縮は下腿を前傾させます。
これにより膝関節屈曲が生じて、衝撃を吸収することができます。
またこれらのいわゆるheelrocker機能により、衝撃吸収するとともに、前方への推進力も生まれます。
下腿の前傾は最終的に腓腹筋とヒラメ筋により制御され、次の立脚中期のankle rocker機能を働かせる準備をします。
【距骨下関節】
距骨下関節は外反します。
膝関節のところで書いたように、下腿の内旋を生み、膝関節の安定化に関わります。
まとめ
LRではICで生じた衝撃を吸収することと、heel rocker機能によりスムーズに前方への推進を促すことが重要となります。
股関節屈曲位はICからの延長で生じており、前方に崩れるのを防ぐために大殿筋の収縮が必要になってきます。
膝関節屈曲位は衝撃吸収で最も重要となり、heel rocker機能と連動して起こります。
この膝関節屈曲の制御のために大腿四頭筋の収縮が重要になります。
足関節底屈位は前脛骨筋により制御され、同時に下腿前傾が起こります。
これがいわゆるheel rocker機能であり、この下腿前傾により膝関節屈曲が誘発されます。
この一連の動作により衝撃吸収だけではなく、前方への推進を促します。
重要なLRの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.
イニシャルコンタクト(initial contact:IC)初期接地まとめ【歩行分析】
イニシャルコンタクトとは
イニシャルコンタクト(以下IC)とは、歩行の最初に踵が地面に接する場面を言います。
つまりICとは歩くために振り出した足が地面に「初期接地(イニシャルコンタクト)する瞬間」ということです。
歩行観察では、ここを歩行周期のスタートとしています。
歩行周期とは立脚期(支えてる時期)と遊脚期(振り出している時期)からなり、ICはこの立脚期の始まりの場面となります。
このICですが、昔は「踵接地」と言われていました。
しかし、必ずしも踵から接地できる人ばかりではないため、現在、歩行分析で主流となっているランチョ・ロス・アミーゴ式ではIC(初期接地)と表現されています。
(ランチョ・ロス・アミーゴ式とは臨床歩行分析のメッカと言われるロサンゼルスのランチョ・ロス・アミーゴ国立リハビリテーションセンターで考えられた方法です。)
イニシャルコンタクトの役割
イニシャルコンタクト(以下IC)では2cmもの重心の落下があると言われています。
そのため、落下の衝撃に耐えるためのアライメントを作らなければいけません。
また、このアライメントがその後の立脚期の安定や前方への推進力に影響するため、ICでしっかりと下肢のポジションを作ることも重要となってきます。
つまりICの場面で求められる機能は、「①踵接地の衝撃に耐えること」と、「②下肢のアライメントを保つこと」の2つとなります。
このときの下肢のアライメントは、股関節屈曲20°、膝関節屈曲0~5°(ほぼ完全伸展位)、足関節中間位、距骨下関節外反位です。
なぜこのような肢位をとるのでしょうか。
そしてそれがなぜ衝撃に耐えるために有利なのでしょうか。
歩行のそれぞれの場面は連続しています。
そのため場面ごとのアライメントは前後の関係を考えて、はじめて理解できます。
なので場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解していく必要があります。
なぜICではこの肢位をとるのか
【股関節】
まず股関節20°屈曲位から考えていきます。
ICは遊脚期から立脚期に切り替わる瞬間ともいえます。
そのため遊脚期での下肢の振り出し(Tsw)で作った20°屈曲位がそのまま保持されていることになります。
この時、振り出し(股関節の屈曲モーメント)を制御するために大殿筋とハムストリングスが活動します。
特にこの大殿筋の収縮は重要で、屈曲モーメントにより体幹・股関節が前方に崩れていくのを制御する役割があります。
また踵接地の瞬間、腸骨は後傾するため仙結節靭帯と骨間靭帯の張力を高めて仙腸関節の安定に作用するのですが、その際ハムストリングスの収縮がさらにそれを強固にする役割があります。
なのでこの股関節屈曲20°で大殿筋・ハムストリングスが収縮している状態は、衝撃に耐えるために有利であるとともに、アライメントを維持するためにも重要だと言えます。
またこの屈曲20°という肢位は、地面への垂直の力が、振り出しによる下肢を前に滑らせてしまう方向の力より大きくなるため安定すると言われています。
歩幅が小さければ下肢を前に滑らせる力が少なくなるため、安定しますが歩行による推進力も少なくなってしまいます。(高齢者でよくみられます。)
そのため健常者の大きな振り出しでは、この理想的な股関節屈曲と大殿筋・ハムストリングスの収縮による安定が重要となってきます。
【膝関節】
膝関節はこの時期にほぼ完全伸展位をとります。
膝関節も股関節と同様に振り出しから連続し、遊脚期の最後(Tsw)には膝から下が振り子のように振り出されるのでほぼ完全伸展位となります。
膝関節伸展位は、膝関節周囲の靭帯の緊張が高まる「締まりの位置」なので、踵接地の衝撃に耐えることができます。
また、股関節屈曲と膝関節伸展のアライメントでは体重ベクトルが、膝関節軸の前方を通ることになます。これにより膝関節伸展方向のモーメントが発生し安定性の高い状態になります。
この際、この膝関節伸展を維持するために大腿四頭筋の収縮や大殿筋上部線維による腸脛靭帯の緊張が起こり、膝折れを防ぎます。
さらに反張膝を防ぐためにハムストリングスの活動も必要となります。
つまり膝関節のアライメントを制御するために、膝関節前面・後面両方の筋群の活動が必要になり、前面ではより強い活動が必要になると言えます。
【足関節】
足関節はこの時期に中間位をとります。
この「中間位で踵接地する」ということは、足部の安定性に重要な意味を持ちます。
足関節背屈位では、距骨関節面の広い部分が脛骨と腓骨の間にはまり込むため「締まりの位置」となって足関節の可動は制限されます。
さらに中間位では足関節の適合性が最も高くなると言われるため衝撃に耐えるために有利となります。
またこの肢位はICの後に続く、ローディングレスポンス(LR)で重要になります。この時に起こるheelrocker機能のためのポジショニングとして、足関節中間位が適切な位置となるためです。
これらの理由で、足関節を中間位に保ち踵接地するのが理想的ですが、そのためには前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋の活動が必要になります。
【距骨下関節】
また衝撃に耐えるために距骨下関節は外反し、その影響で膝関節は内旋します。
この下腿の内旋は、股関節屈曲位での制御に必要な大殿筋の活動が大腿骨を外旋させるのに対して、距骨下関節は外反し下腿を内旋させるため運動連鎖により起こります。
これにより前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)が交差を強めることになり、膝関節がより安定します。
まとめ
ICでは衝撃に耐えることと、後のheelrocker機能を効率よく働かせるための下肢のポジショニングが重要になります。
股関節屈曲位は仙腸関節と膝関節の安定に関わり大殿筋・ハムストリングスにより制御されます。
膝関節伸展位と下腿内旋位は靭帯による受動的な安定性をもたらします。また大腿四頭筋や大殿筋上部の活動により膝折れを防ぎ、ハムストリングスにより反張膝を防ぎます。
足関節中間位は距腿関節のはまり込みによる安定化と、heelrocker機能の準備につながります。このために前脛骨筋などの足関節伸展筋の活動が重要になります。
これらにより衝撃吸収と下肢のポジショニングが達成されます。
重要なICの機能をこの機会にぜひ整理してみてください。
【参考文献】
1)キルステン・ゲッツ=ノイマン(著),月城慶一,他(翻訳):観察による歩行分析.医学書院,2008.