【理学療法士】頭部外傷ってどんなリスクがあるの?
頭部外傷は、交通事故や転倒などで、頭を打った時に起こります。
頭部外傷といっても重症度は様々で、頭蓋骨が骨折する場合もあれば、脳から出血するものまであります。
また、骨折や出血などの重度なものだけではなく、話題になった「脳震盪」も頭部外傷のひとつです。脳の損傷は場所や重症度によって病態が様々です。
今回は頭部外傷についてまとめてみます。
頭蓋骨骨折と脳損傷
頭部外傷で起こる重度なものとして、頭蓋骨骨折と脳損傷があります。
頭蓋骨骨折はその名前通り頭蓋骨の骨折です。それに対して脳損傷とは、脳を包む髄膜(硬膜、クモ膜、軟膜)や脳実質(脳そのもの)の損傷です。
頭蓋骨骨折も部位によって名前が変わり、頭の部分である「円蓋部」の骨折と内部にある「頭蓋底」の骨折などがあります。
このうち円蓋部の骨折では、急性硬膜外血腫などの髄膜レベルの損傷を伴う場合があります。
そのため頭蓋骨骨折と脳損傷の関係は深いと言えます。
頭蓋底の骨折では、パンダの目といわれる目の周りの皮下出血(racoon eye)や耳介後部の皮下出血(Battle徴候)が有名で、それぞれ前頭蓋底骨折、中頭蓋底骨折でみられます。
頭部打撲後にこれらがみられた場合は頭蓋底骨折を疑います。
急性硬膜外血腫
頭蓋骨と硬膜の間に出血が起こる場合を言います。
その出血部位から、硬膜外血腫は頭蓋骨骨折に合併する場合もあります。
画像所見の特徴として「凸レンズ型」に血腫が映ります。
また血腫が大きい場合、正中偏位(midline shift)がみられる場合があります。
この急性硬膜下血腫の症状で特徴的なのは、受傷後に一時的な意識清明期(lucid interval)があることです。
この意識清明期の後は、意識混濁となり昏睡となっていき生命の危機に関わります。
そのため緊急に開頭して血腫を除去して止血しなければいけません。
急性硬膜下血腫
硬膜とクモ膜の間の、硬膜下腔に出血がある場合を言います。
脳挫傷を伴うことが多いと言われています。
硬膜外血腫との違いは、意識清明期が無いことです。そのため受傷直後に意識障害がみられます。
画像所見の特徴として「三日月型」に血腫が映ります。
硬膜下血腫でも血腫が大きい場合、正中偏位(midline shift)がみられる場合があります。
硬膜外血腫と同様に、意識混濁となり昏睡となっていき生命の危機に関わります。
そのため緊急に開頭して血腫を除去して止血しなければいけません。
慢性硬膜下血腫
アルコール多飲者や高齢者で起きやすく、軽微な外傷で生じます。
「何ヵ月か前に頭を軽く打った」というような高齢者で起きる場合が多く、時間がたっているため原因がはっきりしない場合もあります。
画像の特徴は急性硬膜下血腫と同じように「三日月型」の血腫像を呈します。
しかし、慢性とあるように徐々に血腫が広がり、多くは2~3ヵ月後に症状が現れます。
急性硬膜下血腫と同じ硬膜下腔に出血が起きます。
慢性硬膜下血腫が見つかれば、穿頭ドレナージ術で血腫の除去を行います。
脳挫傷
先ほどまでのものは、髄膜という脳表面を覆う膜のところで出血したものです。
それに対して、脳実質(脳そのもの)で出血した場合は脳挫傷といいます。
画像所見の特徴は、点状出血と呼ばれる小出血の散在です。時間と共に出血が広がって小出血が集まり、血腫となります。
いずれもなぜ危険かというと、出血が血腫という塊となり脳を圧迫してしまうためです。また同時に出血の周りに脳浮腫も生じるのでより圧迫は強くなります。
頭蓋骨の内部の空間は割と少なくて、脳の内部や外側の髄膜から出血すると、たちまち脳を変形させるほどの圧迫が起きてしまいます。
それが重度になると、脳ヘルニア呼ばれる脳幹を圧迫するような事態となり、生命の危機になります。
脳幹には呼吸や循環などをコントロールする中枢があり、生命活動が停止してしまうためです。
また脳幹・視床・大脳皮質のいずれかが障害された場合、意識をコントロールする部分がやられて、多くの場合意識も障害されてしまいます。
意識障害とは、要は目が覚めなくなってしまいます。
重度になると昏睡と呼ばれます。
クモ膜下出血もまれに外傷で起きる
急性硬膜下血腫と同様に「脳表面の動脈」からの出血で起きます。
硬膜下腔ではなくクモ膜下腔に出血した場合、外傷性のクモ膜下出血となります。
脳表面にある動脈はクモ膜下腔を走行していて、それが破綻した場合、くも膜下腔に出血が広がる場合と、クモ膜を破って硬膜下腔に出血する場合があります。
また「架橋静脈」というクモ膜下腔から硬膜下腔を縦に貫通して上矢状静脈洞につながる静脈があり、これが破綻した場合も硬膜下血腫やクモ膜下血腫となる可能性があります。
びまん性脳損傷
【脳震盪】
これが 最も多い頭部外傷です。
頭部に衝撃を受けた直後に起こる一時的な意識や記憶の喪失とされています。またすぐに回復するものを言います。
軽症の場合意識の喪失は伴わない場合があり、何事もなかったかのように動けてしまうため危険があります。
なぜ危険かというと、何事もないと思っていてもじつは注意力や集中力などの低下や記憶障害などの症状が現れている場合もあり、これが正常に戻るには数週間かかると言われています。
そしてもう一つ危険な理由はセカンドインパクト症候群の存在です。
脳震盪を起こした状態でもう一度脳震盪を起こすリスクは数倍になってしまい、繰り返すと重症度が増していきます。
この脳震盪を起こした状態で再度脳震盪を起こすことをセカンドインパクト症候群といい、生命の危険や重度の後遺症のリスクがあります。
そのため脳震盪は軽症だからといって軽くみてはいけません。
また脳震盪後に脳画像で特に問題がないにも関わらず、意識障害が長く続く場合はびまん性軸索損傷として判断されます。
【びまん性軸索損傷】
これも軽微な頭部外傷で起こることがあるものです。
遷延性の意識障害が特徴で、脳の回転加速度により軸索が切れてしまって起こります。
軸索の束である脳梁が好発部位です。
頭部外傷自体は軽微なのに、意識障害が長く続く場合にびまん性軸索損傷が疑われます。
高次脳障害(記憶・認知・人格の障害)を伴う場合も多く認知機能の回復は不良と言われています。また、意識障害が長ければ長いほど、予後は悪いとされています。
まとめ
今回は頭部外傷についてまとめてみました。
軽症のものから重症のものまで様々ですが、転倒により頭部に衝撃を受ける場合のリスクを理解できました。
特に高齢者では、そのリスクが上がることも知っておかなければいけません。
このリスクから考えても、理学療法士として転倒予防を進めることは重要です。
参考:
『病気がみえるvol.7脳・神経 第1版』岡庭豊.メディックメディア.2015
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